工務店を対象としたフランチャイズが広まりはじめてすでに30年以上が経過し、全国には多数のフランチャイズシステムが存在し加盟する工務店も多くみられます。
新築住宅を供給する重要プレーヤーとして、工業化住宅を主とした大手ハウスメーカーがありますが、そのシェアは約3割ほどであり、ほとんどは中小の工務店により施工されています。
工務店が供給する住宅には、大手ハウスメーカーと同様の高品質・高性能なものが多くみられ、そのノウハウはフランチャイズによるものもあるようです。
この記事では工務店経営をはじめて間もない方向けに、フランチャイズの加盟に関し判断に迷うときの参考になるよう、メリットとデメリットについて解説します。
まずは工務店フランチャイズの意義を確認
工務店経営で目指したいのは「オンリーワン」としての存在です。
- 地域でナンバーワン
- ○○県でナンバーワン
もちろん特殊な分野で日本ナンバーワンの存在であってもよいでしょう。そのためには他社にはない技術力や企画力・商品力などが必要です。
日本では多くの工務店が、住宅の新築やリフォーム・修繕などの建築工事における施工会社としての役割を担っています。
建築工法は伝統的工法と言われる「木造在来工法」がベースですが、新築工事においては「プレカット」や「金物工法」が普及しており、 “新在来工法” が広く普及しています。
どの工務店でもベースとしては同じような工法であり、差別化を図るには実はすごくむずかしいのが実態です。
“大工” という職能が全国どこでも、どのような工務店でも同じ役割を担い建築現場の中心にいます。
しかし大工の腕が差別化の要素になったのは以前のことであり、現代は大工の腕そのものを“新在来工法” は代替する方法を持っており、なおさら差別化が図りにくくなっています。
そのような建築業界のなかで「フランチャイズ」が育ち広まっていったのには理由があります。
その理由こそ工務店フランチャイズのメリットと位置づけられるものになります。
工務店フランチャイズのメリット
工務店フランチャイズの最大のメリットは『他社との差別化を図ることができる “武器”を持つことができる』ことです。
その武器には次のようなものがあります。
- 低価格で住宅を建てることのできるシステム
- 省エネルギー性能の高い住宅を造る技術
- ハイグレード・ハイクオリティな住宅を造るシステム
- 耐震・免震・制振などの特殊な機能を発揮する工法
- 特殊な建築素材により室内環境を造り出す工法
- 集客増を実現するマーケティングツール
- 合理的な経営を可能にする住宅の規格化システム
このような“武器”を手に入れると、工務店経営においては次のような恩恵を得ることができます。
工務店フランチャイズが提供するノウハウなどは、開発者が実践し成功した体験にもとづくもので、フランチャイズへの加盟検討をする事業者には理解されやすい傾向があります。
「住宅の生産プロセスに関する技術」であれば、加盟店にとってもノウハウの蓄積となり、仮にFCから脱退したあとでもノウハウそのものが無くなることはありません。
「部材のデリバリーシステム」に関するノウハウは、一度体制が構築されると長く継続するもので、これもFCからの脱退があっても失うことはありません。
以上のように工務店フランチャイズにおいて提供されるノウハウは、普遍性のあるものが多く工務店の経営改善に役立っています。そのため導入に抵抗感が少なく普及しやすい面が強いのです。
工務店フランチャイズのデメリット
工務店FCのメリットは大きな魅力であり、経営面で可能であれば複数のフランチャイズに加盟するケースもあります。
しかしその一方工務店フランチャイズには、デメリットもあるので注意が必要です。
- フランチャイズの開発から時間が経過すると技術やノウハウやシステムが陳腐化する
- フランチャイジーが増えると同じような競争相手が増え差別化の効果がなくなる
- ニーズの変化によりフランチャイズの特徴が評価されなくなる
- ターゲットとして設定した顧客層にマッチしないと効果が発揮されない
- システムが自社の体制では使いこなせないと宝の持ち腐れになる
- 初期投資やロイヤリティに見合う集客が図れないと経営を圧迫する
このようなデメリットはノウハウの効果が発揮できず、ロイヤリティなどの負担だけが生じる結果となります。
効果の得られないノウハウは更新や新陳代謝を図る必要があり、社内スタッフによる応用力が求められるでしょう。
豊富なバリエーションを形成する工務店フランチャイズの機能
日本は北緯45度ぐらいから北緯20度ぐらいまで、南北に長い国土をもちます。四季の変化や自然環境もバリエーションに富み、住宅の造り方にも地方によって独特の歴史があります。
北海道の住宅に要求される性能や価値観と、沖縄・九州で要求されるものには違いがあります。その一方では高気密・高断熱性能と省エネルギー性は、目標値の違いはあっても共通のテーマにもなっています。
一方住宅は性能ばかりでなく “住文化” という面でも評価されることが多く、地域によって受け継がれる伝統を生かした “住まいづくりの精神” を遺していこうとする試みもあります。
このように住宅には技術だけではない価値を評価する面があり、フランチャイズをとおして全国に広めようとする、地方都市を拠点としたFCも実は存在しているのです。
多様な価値観にもとづいたフランチャイズが普及することにより、住宅のバリエーションを豊かに保つ働きが、工務店フランチャイズにはあることを気づかされます。
まとめ
工務店経営をおこなっていくにはいくつかの経営資源を整備しなくてはいけません。
- 施工技術
- 施工・生産体制
- 商品企画力
- 営業体制
- 管理体制
しかも造りあげる住宅には他社と差別化が図れるような魅力も必要です。
工務店開業当初からこのような経営資源を整備することはむずかしく、フランチャイズへの加盟は有力な選択肢です。
しかしフランチャイズから提供されるノウハウは、時間の経過に伴い陳腐化することを防ぐことはできません。基盤となるノウハウを獲得したあとは、自社の体制にマッチしたノウハウに発展させる必要があります。
そして理想とする “住宅像” を目指して “工務店力” を磨いていってほしいものです。