建設業では、建物が完成してから代金を入金する売掛金取引が主流です。
そのため、資金繰りが複雑になりがちで、黒字倒産を起こしやすいと言われています。
実際に2022年度、建設業の倒産件数は大幅に増加しています。
帝国データバンクでは、建設業の倒産増加について、下記のように発表しています。
『2022年度(22年4月-23年3月)の建設業における倒産は1291件だった。歴史的低水準が続いた20-21年度に比べて大幅に増加したほか、単月でも23年3月(155件)は、16年8月(154件)以来約6年半ぶりに150件を超え、急増傾向が鮮明となった。』
引用:株式会社帝国データバンク 全国企業倒産集計2022年度
倒産の危険を回避するためにはどのような対策があるでしょうか。
工務店が倒産する主な理由と倒産を防ぐために考えられる施策について説明します。
黒字倒産とは
黒字倒産とは、経理の帳簿上では収益が出ている「黒字」であるのに、経営が破綻することです。
倒産する建設業者のうちおよそ半数が黒字倒産といわれています。
顧客からの入金は、完成、引き渡し後になされることが多く、分割払いの契約をする場合でも工事開始時に半額回収できればいい方です。
しかし、建築に使われる資材や必要となる重機は着工前に手配され、工事のスケジュールに合わせて順次納品されます。
よって、建物が完成するまでの間、「建て替え払い」をしている状態で多額の負債を抱えることとなります。
契約数が増加するとそれに比例して、着工物件が増えるため負債も膨れ上がっていきます。
新たな受注が安定してとれており、完成して資金回収できるタイミングの物件が継続している場合、大きな問題とはなりませんが、何らかの要因で工事が止まる物件や着工できない物件が増加すると、一気に経営状態が悪化して資金ショートを起こす可能性が増加します。
工務店の経営が行き詰る原因
近年、経営に行き詰まる工務店が増加している原因として考えられるのは下記のような内容です。
① ウッドショックの影響
2021年3月頃から続く「ウッドショック」が及ぼす影響は甚大です。
コロナ禍の労働力不足による輸送の遅延、海外への持ち出しの規制の増加、輸送のためのコンテナの不足、輸送費の高騰などを原因として、建材となる木材が不足し価格が大幅に高騰しました。
根本の原因であるコロナ禍をすぎたため、木材の価格は徐々に落ち着きを見せていますが、ウッドショック前の水準に戻るまでにはまだ時間を要する見込みです。
② 半導体の不足
世界的な半導体の不足は、建設業界にも大きな影響を与えました。
給湯器やエアコン、シャワートイレなど住宅設備が慢性的に不足し、入手が難しくなりました。
③ 資材不足による影響
受注した物件があっても、資材が入手できないと工事が始められず、代金の回収が不可能です。
資材が揃わず着工を延期している間も、人件費や経費は発生するため、受注から引き渡しまでのスケジュールがスムーズに進まなければ資金繰りは悪化してしまいます。
また、着工の見込みが立たない状態では、新たな受注を得ることもできません。
安定した資材の入手ができなければ、経営が先細りしてしまいます。
④ 資材高騰による影響
受注契約済の場合は、ウッドショックによって建築費が大幅に増加していても、顧客に対して増額請求は難しく、利益をひっ迫するケースが多くありました。
また、受注前の見込み客に対しても、資材高騰分を全て売価に反映してしまうと、顧客離れの可能性もあるため難しい状況が続きました。
⑤ 人材不足
経営者の高齢化や体調不良に伴い、後継者がいない場合、事業を畳んでしまうケースもあります。
建設業界全般において若年層の人材の不足が続いています。
あと数年で団塊世代の大量引退時期に入ってくるため、今後も人材不足によって経営できなくなる工務店が続くことが考えられます。
また、「建設業許可」を受けるために必要な有資格者が離職してしまい、所定の人数を確保できずに、事業の継続が難しい場合もあります。
倒産を防ぐために取り組むべきことは
工務店が倒産を防ぐためには、以下のような対策を考えてみましょう。
① キャッシュフローの見直し
キャッシュフローは、最低でも3か月先まで把握しましょう。
受注後の物件に関しては、ある程度の見込みが付けられる段階でフローに組み込んでおくと、突然の資金ショートを防ぐことができます。
黒字倒産は、支払いできる現金の不足によって引き起こされます。
直前になって発覚しても急遽対策をとることは難しいです。
しかし、3か月先のリスクを把握していれば、金融機関に相談する、ファクタリングを利用する、新規の投資を先送りするなど対策の幅が広がります。
② 顧客からの入金スケジュールを一邸ずつ把握する
分割で支払う場合の支払いスケジュールや、顧客の利用するローン内容を把握して、期日通りに入金を促せるよう管理しましょう。
場合によっては、一旦工事をストップするなどの対策も必要です。
また、契約時の支払い条項において、着工前までの入金割合を増やすようなルールを社内で徹底することも大切です。
顧客との商談を重ねる前に、早い段階で支払いについて説明をし、同意を得るようにしましょう。
③ 一邸ごとに予算と実行差異を確認する
予算と実績に大きな開きがある場合、どのくらいの利益があるのか予測が立てられません。
天候不良が続いて工期が延びることや予算外のイレギュラーが発生することも、ある程度加味した予算を組む、追加で資材を発注する場合の流れをマニュアル化するなど、「現場の担当者だけが、支払額をわかっている状態」や「工事が終わるまでどのくらいの利益があるかわからない」状態とならないような業務フローを構築する必要があります。
④ 人材の確保
離職を防ぐことや新しい人材を確保するためには、働きやすい環境を整える必要があります。
建設業界全体で人材不足は深刻で、どの企業も求人に力を入れています。
休日の取得や労働時間の見直し、資格取得支援制度、教育制度などを整備しなければ人は集まらないのが現状です。
⑤ 業務の効率化
人手不足を解消するには、これまでの業務内容を見直して効率化する必要があります。
2024年春から建設業でも施行される「働き方改革」によって、これまで社員の長時間労働や休日出勤に依存して業務していた場合、成り立たなくなることも考えられます。
社員全員が現場状況を共有できるアプリの導入や長期見込み客への営業活動の自動化など、業務の効率化を検討しなければなりません。
⑥ 業務不可の大きい部署や職種を把握する
人手不足を解消するために、外注を利用する手段もあります。
それぞれの業務における課題や問題点、時間を要する内容を把握して、どういったサポートを利用すれは、少ない人数でも業務が円滑にできるかについて検討しましょう。
まとめ
工務店の経営が悪化する原因や黒字倒産を引き起こす原因、倒産を防ぐために検討するべき内容について説明しました。
建設業は、つなぎ出費が長期間に及ぶ場合もあり黒字倒産が起こりやすい業界です。
長期的な資金繰り計画を立て、収支状況を細かく管理する必要があります。
経営者だけでなく、社員全員がコストに対する共通認識を持って、「細かいミスを防ぐこと」「無駄のない業務をすること」「所定の利益を守ること」を心掛けるだけで、社内のコスト管理の意識は大きく変化します。
多くの倒産リスクは、早期に気づくことができれば回避する方法をみつけることができます。
ポイントを抑えて、倒産のリスクを回避するお役に立てれば幸いです。