「大手は人集めが楽でいいな」
「中小工務店は人材確保に一苦労なんだ」
私が小規模な工務店を経営していれば、おそらくは同じようなことを考えるでしょうし、愚痴の一つや二つを言いたくもなります。
今のような売り手市場だと、知名度のある大手は圧倒的に有利ですし、もともとある大手志向に拍車が掛かって、中小工務店はその煽りを受けることになるでしょう。
しかし、目先の人手が足りないからと適当な人材を採用すれば、かえって経費倒れになることになりかねません。
せっかく雇った人材に退職されるようなことがないように体制を整えるのも社長の仕事でしょう。
ただ今回は、通常では考えられないような常軌を逸した社長の行動により、会社から人がどんどん去っていった実例をご紹介しましょう。
「社長に呆れ果てた」・・・人が辞めていった工務店のあり得ない本当の話
常軌を逸した社長 ①・・・ 怪しげな中東人が会社に出入りした挙句
前回号同様にあまりに細かいことは書けないのですが、現実にあった信じられない話をご紹介しましょう。
関東地方にあるJ工務店。
正確には“あった” になりますが、社長がとんでもない詐欺に引っかかって会社が潰れてしまった事例です 。
会社が潰れる前から異変に察知した社員が次々と去っていき、最後は側近の役員が辞めてしまっての倒産でした。
社長がある日妙なことを言い始めた
その会社の役員と仲が良かったので、問題発生の初期から私は話を耳にしていたのですが、社長がある日突然サウジアラビアやカタールの国籍を持つ中東の人物をいきなり会社に連れてきたそうです。
J工務店はそれなりの規模があったので「中東地域にでも進出するのだろうか」と思ったのもつかの間、彼らを紹介された役員氏は話がおかしなことにすぐ気づいたそうです。
「中東やアフリカの貧しい子供たちを救ってほしい。そのためにはあなたの力が必要なのです」
要約するとこんな話でした。
ここに至る細かい経緯は伏せさせていただきますが、とにかく社長が妙なところで接点を彼らと持って、この話にのめり込んでしまったとのこと。
単なるビジネスならいいのですが「貧しい子供を救ってほしい」との文言に社長が漢気を出したというか、社会貢献なる言葉が社長の何かに火をつけてしまったようです。
真っ当な話で社会貢献するならば問題ないのですが、結論から言うとこれは典型的な詐欺話でした。
住宅だけでなく商業施設も手掛けていたJ工務店。
貧しい地域の子供たちを助けるために、学校やその他の施設を政府と一緒になって作って欲しいというシナリオです。
話を進めていくと、どこかで聞いたことがあるようなストーリーが彼らからどんどん出てきました。
「これらの国は日本とは違います。政府といっしょにやるにはまずは大臣クラスの人間にそれなりの金額を包まないと話が動きません。とりあえず300万円を都合してもらえませんか」と切り出してきたとのこと。
詐欺はすべて同じですが、はたから冷静に見ると「そんなバカな」 と思います。
しかし、どっぷりハマっている人間からすると、おかしくは見えないのです。
この役員氏もこの席に立ち会っていたとのことで、その場の空気が明らかにおかしかったと話していました。
面談の後にさっそく社長に対してその旨話したのですが、全く耳を貸さないどころか「君は視野が狭い。わが社もそろそろ社会貢献のことを考えないといかん時期だろう」と全く相手にされなかったそうです。
1人辞め2人辞めそして会社はなくなった
一見して中東方面だと分かる外国人が入れ代わり立ち代わり会社にやってくれば、あっという間に社内で噂になります。
しばらくすると「この会社大丈夫か」「社長が妙な話に騙されているみたいだ」となりました。
社長が隠していてもこんなことはすぐに広まるのですが、J社では朝礼時に社長が「中東やアフリカの困っている子どもたちを我々は助けることになる。みんなも誇りを持って仕事をしてくれ」と意気揚々で語るわけですから、秘密どころか公然の事実となって認識されていたのです。
この状況になってから、事務の女性社員が2人立て続けに辞め、そこからはボロボロと退社する人間が出始めたそうです。
さらには事情を把握できる立場にいる経理担当の女性も「もうむちゃくちゃ・・・」と言い残して会社を去っていきました。
そんなこんなで会社は半年後には跡形もなく消滅することになったのです。
旧知の役員氏は最後まで残ったそうですが、会社が倒産する直前になっても社長は「何かの間違いではないか」と現実を受け入れられなかったそうです。
これは究極の事例だと思いますが、中小工務店は社長が全てになるので、くれぐれも慎重に行動してください。
常軌を逸した社長 ②・・・ 浪費癖が止まらないS工務店の社長
次の話はつい一週間ほど前に仕入れたばかりです。
ある工務店の展示場に私は足を運んだのですが、帰りはいつも若手営業マンのB君が私を駅まで送ってくれます。
B君はまだ若いのですが、職組で以前は別の小規模工務店に勤務していました。
しかし、そこが倒産してしまったので、今の会社に移ってきたのです。
私 「B君は転職組だよね?」
B君「そうです。前の工務店が潰れてしまったんですよ」
私 「受注が厳しくなったんだ」
B君「受注は順調でした(笑)ただ社長の浪費グセが・・・」
大体ご想像つくと思うのですが、受注が順調で会社がそれなりに儲かると、社長が妙な買い物をし出すことがあります。
この会社もまさにそうでB君は社長が次から次へと購入した高額物件の事例を色々と教えてくれました。
まずはお決まりの高級車。
車種は話せませんが、ベンツやBMWなど、ありがちな高級車ではありません。
「そんな車誰が乗るの?」と言われる範疇に入るような超高級車だとだけお教えしましょう。
車とくれば貴金属となります。
キラキラギラギラとした金のネックレスが大好きな社長もいますが、S工務店の社長が目をつけたのが高級時計です。
時計はピンキリなので、数100万どころか数1,000万の時計でも、探せばあちらこちらにあるでしょう。
そして極めつけは絵画。
私はゴッホやらその他有名な画家の絵が近くの美術館にやってくるとひとまず見に行きますが、正直なところ絵を眼る能力はほぼありません。
「むむむ・・・」
こう唸りながらなんとなく絵を見ているだけです。
しかしS工務店の社長は、実際に絵を眼る能力はかなりのものがあったそうで、自身も絵を描き二科展にも入選したことがあるほどの腕前とのこと。
かえってそれが災いになったのでしょうが、30万円、40万円するような高価な絵を即断即決で衝動買いし、会社の中はもちろん展示場にも飾っていたようです。
こうなると次はお決まりの女性に・・・と思いきや、そちらには全く浪費はしなかったかとのこと。
お付き合いで女性がいるクラブなどに行ったり、逆に接待をするためにお客さんをそういうところに連れて行くことはたまにあったようですが、ほかの人と比べれば使う金額も回数も圧倒的に少なかったそうです。
しかし、高級車、絵画、時計、などに目に行けば、いくら利益率の良い工務店であっても資金が続くわけがありません。
途中でどうして気づかなかったのだろうか?と私も思いますが、 凧の糸が切れると人間というのはどこまでも行ってしまうんでしょうね。
まとめ
「人が辞めてしまう工務店」をテーマに書きましたが、今回は究極の実例をご紹介しました。
ある意味全く参考にならないと思います(笑)
いくらなんでも極端な事例ですから、皆さんには当てはまらないと思いますが、人間は何がきっかけで急激におかしな方向に曲がっていくか誰にもわかりません。
いくら小規模な工務店であっても、社員とその家族、そして取引先や大工など職人さんのことを考えれば、相当数の人間があなたの背中にぶら下がっているのです。
今回の話は笑いながら読んでもらえれば構いませんが、少しでも皆さんの戒めになればと思います。