小規模工務店が抱える課題|セミナー主催者から頼まれた5つの要望

取引先の営業担当がさまざまな情報を届けて危機感を伝えても、多くの工務店の社長は「年間3棟ぐらいだったらなんとかなるから」と答えます。
3月の頭に講演するセミナーの打ち合わせで、工務店を取引先に持つ主催者は、私に5つのことを頼んできました。
危機感をあおること、補助金や国の施策に詳しくなるよう促すこと、自社の施設の活用、全国の事例の紹介、紹介受注に頼るなという念押しです。
主催者が出したどの要望も、取引先の工務店を見て感じている課題そのものです。
本記事では、セミナー主催者の5つの要望から分かる小規模工務店の課題と、私が講演で伝えている内容を解説します。
小規模工務店の課題がセミナー主催者の要望に出る理由
このセミナーは、会場でのリアル開催とリモート配信を組み合わせる形です。主催者からは、リモートを含めて150人程度が参加する見込みと聞いています。
講演を頼まれるとき、主催者からは大まかなタイトルだけをもらい、「あとはお任せします」と言われる形が多いです。
ところが今回は、この仕事を始めて一二を争うほど綿密な打ち合わせを行いました。
主催者の要望がそれだけはっきりしていたということです。
主催者の会社は工務店を顧客としていて、取引先の工務店ごとに営業担当がついています。
そのため、主催者の会社には現場の不満や問題点が直接上がってきます。
私への依頼も、こうした問題を解消する内容を求めるものになりました。
打ち合わせで要望を聞くうちに、私は現場の小規模工務店が抱える課題を詳しく知ることができました。
主催者の要望は地域によっても変わり、私にはそこが興味深いところです。ある会社では、主催者が具体的なハウスメーカー名を出して「ここと競合した場合はどうすればいいのかを話してほしい」と頼んできたこともありました。
危機感が薄いという小規模工務店の課題
「年間3棟ならなんとかなる」と考える工務店の社長
打ち合わせはリモートで行いました。
主催者の担当者がまず挙げたのは、このままでは多くの工務店が淘汰(とうた)されるのに、社長の危機感が薄いという課題です。
担当者からは、あおり気味に話してほしいと頼まれました。
主催者の営業担当は、さまざまな情報を集めて工務店に危機感を伝えています。
それでも工務店の社長からは、年間3棟ならなんとかなるという返事が返ってきます。
「リフォームがちょこちょこ入るようになったし」という声もあるそうです。
リフォームの受注を経営にどう組み込むかは、OB施主からリフォームを受注する工務店の進め方で解説しています。
なかには「ダメになったら俺の代で廃業するからいいよ」という社長もいて、こればかりは私にもどうしようもありません。しかし、事業を続けて子どもに継がせようと思っている工務店に対しては、主催者はかなり焦りを感じているようです。
取引先には言えないことを外部講師の私が言う
私は主催者にとって部外者なので、かなり好き勝手なことを言える立場にあります。主催者もそこに期待していて、担当者は私にこう頼んできました。
「かなりきつめに言ってもらっていいですから。ただ、私たちからするとお客様なので、そこまで突っ込めないんですよね。森先生は外部ですから、とにかくガンガンいっちゃってください」
こうした要望は珍しくなく、フランチャイズの研修会でも同じことが起きています。
フランチャイズ本部が主催する加盟店勉強会はあちこちで開かれていますが、本部にとって加盟店はお客様です。
本部は本来、加盟店を厳しく指導しなくてはいけない立場にあります。
それなのに、お客様を指導するという難しい立ち位置に置かれます。
そういうときに、外部の私が重宝されています。
補助金や国の施策を自分で取りにいかない工務店
主催者からは、補助金や国の施策にもっと詳しくなるよう檄(げき)を飛ばしてほしいという要望も強く出ました。
私は積水ハウスの出身です。
大きなハウスメーカーでは、国の施策などの情報が、社員が黙っていても上から下へ自動的に降りてきます。
社員が自分から取りにいかなくても、会社が情報を集めて、上意下達で一気に知らせる仕組みになっているのです。
一方、小規模工務店は、こうした情報も自分で取りにいかなくてはなりません。
主催者のような団体が工務店に情報を届けてはいますが、それが当たり前になると工務店は受け身になります。
そうなると、自ら情報を取りにいくことを忘れがちです。
そのため主催者は、そこを強く言ってほしいと私に頼んできました。
取引先業者から最新情報や無料セミナーの案内を得る付き合い方は、工務店の取引先業者の活用法で解説しています。
このことは、工務店の経営者の方の会社にも当てはまらないでしょうか。
取引先の施設を使わない工務店(パナソニックのショールームの例)
自社の施設をもっと活用してほしいという要望は、今回の主催者に限らず、工務店を取引先に持つ会社からよく出ます。
パナソニックの営業所セミナーで話したショールームの活用
パナソニックは住宅会社ではありませんが、工務店にさまざまな住宅設備機器を供給しています。
そのため、パナソニックにとっては工務店がお客さんにあたります。
私はコロナ前の2018年と2019年に、全国のパナソニックの営業所を回ってセミナーをしました。
そこで私は、参加した工務店にショールームの活用を呼びかけました。
「自社で展示場を所有したりショールームを持ってる会社は、参加者の中で少数だと思います。パナソニックはこのショールームを自由に使っていいと話をしているのですから、もっと積極的に活用すべきです」
私はこの話に10分程度の時間を割きました。
主催者の立派な施設がほとんど使われていない
今回の主催者の会社は、パナソニックのショールームどころではないさまざまな施設を持っています。
主催者は、それを取引先の工務店に使ってもらい、受注につなげてほしいと考えています。
主催者がパナソニックの話と同じ内容を話してほしいと強く求めたのは、そのためです。
ところが担当者によると、取引先の工務店の多くは、それらの施設をほとんど活用していないとのことでした。
私から見ると、実に不思議です。
工務店は従来のやり方があるので、あえてそのスタイルを崩す必要はないと考えているのでしょう。
しかし私は、もったいないとしか言いようがないと思っています。
工務店の今の受注がそれなりに推移していても、立派な施設を自由に使えるなら、今の営業スタイルに施設を加えるべきです。
そうして受注率と受注の質をさらに上げることを、工務店は考えてください。
担当者が「この施設をもっと活用してほしいと伝えてくれないか」と私に頼む気持ちは、よく分かります。
施設へお客さんを連れ出すときの誘い方は、住宅営業のショールーム誘客トークで解説しています。
全国の事例は失敗例まで聞く(YouTubeの例)
主催者からは、全国の事例をいろいろ伝えてほしいという要望も出ました。
地域で活動する工務店の社長は、ネットで情報を集めたり、リモートのセミナーで全国の成功事例を聞いたりしています。
そのため、さまざまな事例を話してほしいという要望はもっともです。
セミナーの担当者からよく出るのは、成功事例をたくさん話してほしいという要望です。私は成功事例も話しますが、毎回欠かさず入れるのは失敗事例のほうです。
YouTubeを始めても大半の工務店は変化がない
典型的な失敗事例はYouTubeです。
YouTubeのアカウントを開設して動画を流せばお客さんが来るのではないかと考えて、乗り出す工務店もあります。
しかし、動画を流したから客が増えるというほど単純な話ではありません。
大成功するのはごく一部の工務店で、大半の会社は変化なしに終わります。
私は講演で、失敗事例に加えて、変化がない会社が多いという事実をしっかり伝えます。
そのうえで、私は工務店にYouTubeをやってくださいと伝えます。
意味不明の動画を作ってはだめですが、一定水準以上の動画を撮影してアップすれば、当面変化がなくてもマイナスにはならないからです。
YouTubeのアカウントをまだ開設していない工務店には、これを機会にぜひ乗り出してほしいと私は考えています。
YouTubeを新規客より既存の名簿客向けに使う方法は、工務店のYouTube活用事例で解説しています。
動画を3〜4本で放置しない
私は、始めたからには途中で投げ出さないことも付け加えます。工務店がYouTubeのアカウントを作って動画を3〜4本アップしたものの、そこで断念して放置している例が圧倒的に多いのです。
お客さんがふとその工務店のアカウントを見たとき、最後の動画が5年前のものだったらどうでしょうか。
それだけで工務店を候補から外す理由にはなりません。
ただ、お客さんは少なくとも良い感情は抱かないでしょう。
紹介受注に頼る工務店への念押し
主催者の担当者からは、紹介受注に頼るなと念押ししてほしいという要望も出ました。地域の工務店のなかには、紹介でやってきた自負があり、そのスタイルからなかなか抜け出せない会社があるそうです。
この傾向は、年間3〜5棟程度の家族経営的な工務店に強く出ます。
年間10棟を超えると紹介だけでは回らないので、積極的な営業施策を打つ工務店が多くなります。
一方、年間5棟までの工務店には紹介だけで回っている会社も相当数あるので、なかなかスタイルを変えられません。
「うちは何だかんだで紹介があるから」
こう話す工務店の社長は多いのですが、今後の市場情勢を考えると、私は極めて危険だと断言します。
工務店は、紹介案件があるうちにこそ、紹介がゼロになっても安定して受注できる施策を打ってください。
その施策を続けていれば、工務店は紹介がゼロになってもやっていけます。
現実には紹介もそれなりに出るので、経営基盤は今以上に安定します。
紹介に頼らない新規のお客さんの探し方は、住宅営業の探客方法で解説しています。
まとめ
セミナー主催者から私が頼まれた5つの要望には、小規模工務店の課題がそのまま表れていました。危機感の薄さ、補助金や国の施策への受け身の姿勢、取引先の施設を使わないこと、成功事例ばかりを聞くこと、紹介受注への依存の5つです。
私は呼ばれる側なので、主催者の意向はできるかぎり聞き入れて講演します。
ぜひ本記事の5つの要望を参考に、自社が紹介や取引先からの情報に頼りきっていないかを見直してください。



