住宅営業の歩合給を契約時に全額払う危険|架空契約5棟の事例

住宅会社の社長が、前職で年間15棟を取っていた住宅営業の経験者を中途採用しました。入社10カ月で11棟の契約が上がってきたものの、その営業社員はある日突然退社し、11棟のうち5棟が架空契約だったと後から分かりました。
この失敗は、2つの原因が重なって起きました。
1つは、社長が採用前に前職の成績を確かめなかったことです。
もう1つは、契約書に印鑑さえあれば歩合給を全額払う仕組みでした。
住宅営業の歩合給を契約時にすべて払う仕組みはやめたほうがいいと、私は考えています。
本記事では、住宅営業の歩合給を契約時に全額払う危険と、経験者を中途採用するときの確認点、入社後の育て方を解説します。
住宅営業の歩合給で失敗した中途採用の事例(中部地方のフランチャイズ加盟店)
住宅営業の世界では、住宅営業経験者が頼もしい味方になります。
いい人材がいれば中途社員として採用したいと考える経営者はたくさんいます。
私が経営者でも同じことを考え、いい人材がいると耳にすればすぐにでも会ってみたいと思います。
しかし、経験者の中途採用は当たり外れが大きく、適当に採用すると高い確率で失敗すると私は思っています。
働き頭の退社で採用された50代のJさん
中部地方のあるフランチャイズ加盟店は、某フランチャイズに加盟してから、ほぼロケットスタート状態で受注を取っていました。
この加盟店の営業社員は、フランチャイズ加盟前から自社ブランドを営業していた経験者です。
そのままスライドして、問題なく業績を上げていました。
ところが、一番の働き頭だった営業社員が家庭の事情で退社します。
数字がガタ落ちして困った社長は、中途社員の採用に乗り出しました。
「5~6人と面接したかな」
社長はもっと多くの人と話をしてみたかったそうですが、最後に意中の人物を見つけたので採用活動をやめました。
その人物が50代のJさんです。
ロマンスグレーのJさんは背が高く、パリッとしたスーツを着こなしていました。
話は流暢で弁が立つものの、軽薄さは一切感じられなかったとのことです。
前職「年間15棟」の実績を確かめなかった社長
採用の決定打は、Jさんの前職での実績でした。社長という立場の人は、前の住宅会社での成績が素晴らしいと、喜び勇んで採用を即決してしまう傾向があり、この社長も同じでした。
「昨年は年間15棟で一昨年は12棟の受注実績でした!!」
スーパー営業マンとまではいかなくても、これだけの数字を取っていれば、社長が採用したくなる気持ちはよく分かります。
しかし、私であればこの答えを聞いて、すぐに疑問を2つ持ちます。
素晴らしい数字を取っていたのになぜ辞めたのか、そもそもその数字は本当なのか、という疑問です。
年間15棟も取っていれば歩合給もかなりつくはずで、Jさんは人より明らかに稼いでいたことになります。普通なら、そのような職場を手放したのはなぜかと疑問が湧きます。
Jさんが在籍していたとされる前の住宅会社は、Jさんが面接を受けた加盟店から遠く離れた県に本社がありました。
いくら遠くても電話やメールで連絡はできます。
社長が「採用面接に来たので事情を教えてください」と確認の電話を入れても、別に問題はありません。
しかし、社長はこの基本的な作業を怠りました。
10カ月で契約11棟、そのうち5棟がテンプラだった
晴れて転職に成功したJさんは順調に契約を続け、10カ月勤務した段階の契約実績はなんと11棟でした。この数字だけ見れば社長はホクホクで、Jさんの転職も大成功に見えます。
ところが、Jさんはある日突然退社しました。
「一身上の都合」という面白くもなんともない文言が書かれた紙を一枚だけ置いて、去っていったそうです。
大変だったのはその後で、11棟の契約のうち5棟がテンプラ、つまり架空契約だったのです。
これはこれでふざけた話ですが、差し引いても6棟は契約しているので、会社としては本来問題ないはずでした。
しかし、残りの契約も内容がすべてボロボロでした。
強引な契約、大幅な値引き、お客さんへの嘘のオンパレードです。
Jさんはこれらの嘘を隠し通せなくなったところでドロンした、というのが事の顛末です。
住宅営業の歩合給を契約時に全額払う住宅会社の危険
住宅業界の仕事は扱う物件が大きいため、住宅会社は契約物件の金額や利益率に応じた歩合給を営業社員に払うのが一般的です。ところが、歩合給を契約時に全額支払う住宅会社がまだまだあることが、私には大変気になります。
営業社員にとっては、一気に大きな歩合が入るので嬉しい仕組みです。
しかし、営業社員の心理を考えると、お金をすべてもらってしまえば、そのお客さんに対する意欲が薄れるのは致し方ないところです。
気が抜けた営業社員は契約後の動きがおろそかになり、それがクレームのもとになります。
もう1つの理由が、Jさんのケースです。
契約時に全額を払う仕組みでは、テンプラであろうがデタラメな強引契約であろうが、契約書に印鑑さえついていれば歩合給の対象になります。
この仕組みを知っていれば、悪いことを考える営業マンが出てきても不思議ではありません。
歩合給を契約時に一括で払わず、分けて払う仕組みについては、ハウスメーカー営業の歩合給の払い方で解説しています。
住宅営業経験者を中途採用する前に確認すること
最悪の事例を紹介しましたが、住宅営業経験者を中途採用するときには、社長が確かめておくべき点がいくつかあります。
前の住宅会社に辞めた理由と本当の成績を聞く
社長は採用の前に、応募者が前にいた住宅会社へ確認を取り、辞めた理由と本当の成績を聞いてください。
応募者がスーパー営業マンである必要はありません。
納得できる理由で退社し、営業成績もそこそこならば、私が社長であれば前向きに採用を検討します。
住宅の知識テストを採用前に受けてもらう
住宅営業歴が10年もあれば、営業社員は住宅関連の法規も住宅ローンのことも分かっているはずです。
断熱材の一般的な知識があり、耐震等級の説明もできなければおかしいことになります。
社長はこれらに関するテスト問題を作り、採用を決める前に応募者に解いてもらってください。
10年の経験があるのに市街化調整区域のことがよく分かっていなかったり、耐震等級の説明があやふやだったりすれば、何かがおかしいと判断できます。
経験の浅い新人に入社直後から教える知識については、新人に教える住宅営業の基礎知識で解説しています。
架空のお客さんを設定して面接で質問する
私は、中途の営業マンの採用面接に年間で8~10件は立ち会います。
社長から頼まれることもありますが、私から積極的に同席をお願いすることもあります。
面接では、私が架空のお客さんを設定して、次のような質問をどんどん重ねていきます。
「あなただったらお客さんに〇〇なことを言われたらどう答えますか」
このように質問を重ねると、当意即妙な答えをする応募者もいれば、パッとしない返事しかできない応募者もいます。
最終的な採用の可否は社長が判断しますが、私も思ったところを率直に社長に進言します。
面接での質問の組み立てはハウスメーカー営業の面接で聞く質問で解説しています。
入社後の中途営業社員の育て方

「住宅営業歴は10年あります」
中途の営業社員にこう言われると、社長はあれこれ指導するのをやめて、後は好きにやってくれとなりがちです。しかし、いくら経験者でも、社長は最低限の確認をするべきです。
住宅業界の経験が無い異業種からの中途社員に最初にやる指導は、異業種からの中途社員の育て方で解説しています。
展示場での接客を一定期間後ろから見る
中途の営業社員にもプライドがあります。
そのため、社長は入社面接の段階で、入社後の一定期間は住宅展示場などでの接客を後ろから見させてもらうと本人に伝えておいてください。
接客スキルを確かめるためでもありますが、会社の方針になじまない接客をする中途社員がたまにいるからです。
デザイン重視の住宅会社で接客を鍛え直した男性営業
ある男性営業が転職した住宅会社は、デザイン性を重視していました。その住宅会社の営業社員は、デザインについてだけで小一時間はお客さんに説明できる接客スキルをみんな持っています。
転職してきた男性営業にも、社長はそのことをはっきり伝えていました。
男性営業は彼なりに接客でデザインのことを押し出そうとしましたが、それまでのスタイルと全く違うため、どうしてもうまくいきませんでした。
そこで社長は、社長自身がOKサインを出すまで徹底的なロープレを行い、男性営業を鍛え直しました。
男性営業は実際に能力のある営業でしたので、デザインのことを話さなくても自分なりのスタイルで受注は取れたと私も思っています。しかし、その住宅会社は会社のカラーとしてデザイン性を前面に押し出しているので、男性営業だけが異質な接客をするわけにはいきません。
「年間10棟を取ってくれるから彼には何も言わないよ」
こう考える社長もいますが、社長が中途社員の接客をしっかり見ていないと、気がつかないうちに営業現場がおかしくなってしまうかもしれません。
まとめ
中部地方のフランチャイズ加盟店では、社長が前職の成績を確かめないまま中途営業を採用しました。
さらに、契約書に印鑑さえあれば歩合給が全額入る仕組みも重なり、テンプラ契約と中身のボロボロな契約が残る結果になりました。
住宅営業の歩合給を契約時に全額払う仕組みは、やめたほうがいいと私は考えています。
住宅営業経験者の中途採用では、育て方はもちろん大事ですが、採用するときにも細心の注意を払ってください。
ぜひ本記事のJさんの事例を参考に、自社の歩合給の支給時期と中途採用の確認手順を見直してください。



