「入社して半年になるのにそんな馬鹿な奴いるのか」
「うちの一年生もこんなもんだな」
意見はおそらく割れると思いますが、私の感覚では一年生の資金計画力というかお金に対する知識は非常に曖昧で不確実だと思っています。
今日はこのお金の話に関する現場の実態をお話ししましょう。
結論から先にお話ししますと、皆さん方が思っている以上に、若手の社員は新卒を含めてお金のことがわかっていないということです。
住宅作りにおいて資金計画は最も大事なことですが、それをお客さんに説明できないようでは、受注どころではないことは言うまでもないでしょう。
そのような実態をお話しするとともに、どのように社員を教育していけばよいのかまで言及していきたいと思います。
B君が私に対して申し訳なさそうにこう言った
お金のことがよくわかっていない
つい最近の話です。
比較的大きめな住宅会社に新卒として入社したB君。
4月入社で6月から営業を始めましたので、キャリア半年といったところです。
そんなBとこんな会話を交わしました。
私 「資金計画について話をしたいんだけど展示場接客でお金のことはしっかり話せる?」
B君「100万円借りたら30年間毎月いくら払うといった数字はだいたい頭に入っています」
私 「諸費用についてはどうかな?」
B君「結構怪しいですね」
私 「お客さんから不動産取得税のことや登記の諸費用なんて話振られたらすらすら答えられる?」
B君「お手上げです(笑)」
これはどんな住宅会社に行っても、ほぼ同じような返事が返ってきます。
この会社だけが特別ではなく他でも同じということです。
資金計画に対する教育認識が低い会社が多い
これは私も驚いているのですが、かなり大きな住宅会社であっても営業社員に対する資金計画の教育がかなり遅れていると言わざるを得ません。
今はどうなっているか知りませんが、私が積水ハウスに入社した時の指導もかなりひどかった記憶があります。
昔も今も新卒が会社に入れば一ヶ月ほどの缶詰研修を行う形態は変わっていないのですが、研修内容が新入社員から見てもわかるほどのやっつけ仕事だったのです。
資金計画研修はたったの一時間
過去の話と断りますが、資金計画に関する時間は確か一時間ぐらいだった記憶があります。
「あとは現場でやりながら覚えろ」
一時間研修をやった後の結論はこれ。
しかも、その研修内容は元金均等払いとかなどの言葉の説明は勉強になりましたが、その他といえば100万円借りたときの毎月の返済額などをちょこっと計算したぐらいで終わりです。
これでは実務では話になりません。
結果的には資金計画の知識がほぼないまま営業所に配属されるのですが、あとは先輩の背中を見て独学するしかなかったのです。
営業を教える体制が出来ていない
今でも変わらないと思うのですが、営業を理論だって教える体制を持っている会社はほぼないのではないでしょうか。
現場の空気を体感しないとわからないことは多数あると思いますが、 資金計画などは知識の詳しい人間を登壇させてビッチリ一日かけて教え込むべきです。
そうすれば、ある程度のことは頭に入ります。
その後は自己責任ということでもいいでしょう。
私は新卒のときに極めて憤慨した経験があるのですが、会社としては「習うより慣れろが常識だ」とカッコよく突き放すわけですが、 これはていのいい責任放棄だと思います。
自分たちがしっかり教えられないので「そんな甘いこと言ってんじゃない」と逃げているのではないでしょうか。
お客さん側から説明するとこれは明快になります。
例えばある住宅会社にお客さんが折衝に行ったと しましょう。
担当になったのは あまり資金に詳しくないAさんだとします。
ところが同僚のBさんはとても詳しく瞬時に数字が頭で計算できる人間だとしましょう。
この場合Aさんに当たったお客さんは、貧乏くじを引いたことになります。
おかしいと思いませんか。
その会社の営業と話した時に、こんな基本的なことが営業個人の資質によって違ってしまっていては、お客さんに十万単位の損害を与えることも否定できません。
私の現役時代にも、ある先輩がとても大きなトラブルに巻き込まれましたことがあったのです。
つなぎ融資の処理の仕方がまずくて、お客さんに余分な金利を払わせる結果になったのですが、 それが営業のミスだと気づいたお客さんが営業所に怒鳴り込んできました。
この時どう収めたかは記憶にありませんが、お客さんの怒りは当然と言えるのではないでしょうか。
特にお金の事は非常にシビアな話になるので、 新卒あるいは中途で営業を採用した場合には会社が責任を持ってお金のプログラムを構築して教えるべきです。
B君に話を戻しましょう
冒頭にも書いたように、営業歴半年にして資金の話は極めてあやふやな状態で推移しています。
「接客時にお金の話がどうでたらどうしようとビクビクしています」
このようにB君は話していましたが、その気持ちはよくわかります。
B君の勉強不足が悪いのはもちろんですが、これを放置した会社の責任は大きいのではないでしょうか。
私はこの話を会社の上層部にしたのですが、その結果こちらではFPを講師に招いて、2日間のプログラムを組み来月社内研修を行うことになりました。
これで完璧とはいきませんが、B君のレベルが一定数上がるのは間違いないでしょう。
大手でも社員研修が追いつかない
社名は出せませんがかなり大きな規模の住宅メーカーがあります。
現在絶賛急成長中ですが、やはり営業社員の研修が疎かになっているのは否めないところです。
ここの新卒営業と話をしたことがあるのですが、彼女がこのように言っていたことが今でも印象に残っています。
「うちの会社は営業教育って全然してくれないんです。でも、営業所の先輩が教えてくれるでしょ?とみなさんに言われるんですよね」
私でもこう聞くと思います。
会社全体の教育プログラムが不足していても、なんだかんだと言って営業所の先輩が教えてくれるのが普通だからです。
私も積水ハウス時代の会社全体教育プログラムはなっていませんでしたが、配属先の営業所で先輩に分からないことを聞けば、それはちゃんと教えてくれました。
ところが彼女はこう話すのです。
「先輩も教えてくれないんです。理由ですか?めちゃくちゃ忙しいからです。自分たちの歩合給がありますので、新卒の私に関わってる暇がないというオーラを出してくるんですよ」
この会社の社内事情は私もわかります。
本当に忙しいことを知っているので、新卒の面倒なんか見ていられるかという心情も理解できます。
ただ、会社としてもしっかり教えないし、現場でも教えないとなるとついていけない新卒も出てくるでしょう。
問題はお客さんに迷惑がかかること
私が言いたいのはこれです。
新卒営業も迷惑をこうむるのは事実ですが、最大の被害者はお客さんでしょう。
ベテラン営業についていれば的確なアドバイスを受けられるでしょうし、通常なら3回かかる打ち合わせを2回で済ますことができるかもしれません。
ところが、キャリアと知識のない営業に当たってしまうと、お客さんがその営業を育てる役目も担うことになり大きな迷惑を受けることが考えられるのです。
「あの子を一緒に育てよう」
「新卒だからまあ仕方がないよね」
このような言葉をかけてくれるお客さんが多いのは事実です。
ただ、現実はそんなに甘くなく、トラブルを大なり小なり抱えながら引き渡しを受け「あの会社はでたらめだよな」というマイナスのイメージを持ったまま、関係が切れることになるケースも多々あります。
こんなことでは、中長期的には会社にとって良いことは何もありません。
まとめ
今回のコラムは資金関連の知識を教えられていないB君の事例を取り上げましたが、最終的にはお金の話だけではなくありとあらゆることの教育システムができていないことも取り上げました。
「うちの規模じゃ無理だよ」
小規模工務店の社長の声が聞こえてきそうですが、ダメなものはダメです。
何らかの工夫をして教える体制を取ってください。
ただ、大会社ですらこのような傾向があるわけですから、私から言わせれば「何をやってるんだろう」と言いたいです。