正確に言うと工務店ではなく設計事務所になりますが、東海地方に本社を構えるT社のお話をしましょう。
T社の社長はいかにも建築士の先生という風貌の持ち主で、アシスタントを含めても5人体制のこじんまりとした典型的な設計事務所です。
ある出版社からの依頼で取材をしたのですが、話の中で非常に興味深い追客方法が出てきたのでここでご紹介します。
集客方法に始まりプレゼンテーションや様々な営業手法が工夫に満たされたものでしたが、その中で追客方法に関してもユニークな発想を持っていました。
追客方法というか現場見学会の集客になるのですが、たくさん人を集めるのではなく追客しやすい濃いお客さんを集めるやり方を編み出していたのです。
【工務店向け】見込み客の追客方法に悩むT社が取った意表を突いた追客手法
発想の原点は追客しやすいお客さんを集めること
言われてみれば当たり前なのですが、社長は私にこのように切り出しました。
「建てるか建てないか分からないお客さんや景品目当てでイベントにやってくるお客さんをたくさん集客しても、そこから取捨選択するのは結構難しいことですよね」
確かにおっしゃるとおりです。
できることなら、建築する確率の高いお客様を集客した方が良いに決まっています。
「それならば、イベントなどをする時に最初から確度の高いお客さんを呼べば、追客時に頭を悩ます必要はなくなると私は考えたのですよ」
言うは易し行うは難しの典型事例です。
こんなことができれば誰も苦労はしないでしょう。
しかし、この社長はある方法を使ってこれを実現しました。
「そんな手法で来場あるのですか?」と私も驚いた
有料の現場見学会
さすがに私も初耳でしたし、今後もこのような有料現場見学会をやる会社に出会う事はないでしょう。
私の手元には、社長からもらった現場見学会ご案内のはがきが一枚あります。
お見せできないのですが内容をご紹介しましょう。
ごく一般的な現場見学会の案内DMなのですが、裏面の右下に黒い太字ではっきりと「見学料3,000円」と書いてあるのです。
いかがですか。
皆さんの会社で現場見学会を行う際に、これと同じことをやる勇気があるでしょうか。
さすがにこれは怖すぎますし、何もそこまでやらなくてもという気がするのが普通でしょう。
ただし、3,000円を取るわけですから、来場したお客さんに対しては それに見合うだけのプロのサービスを提供します。
- 2時間制の完全予約
- 設計事務所の社長がすべてに対応する
- 来場者だけのマル秘動画プレゼント
順番に解説しましょう。
① 2時間制の 完全予約
これに説明は要しないと思いますが、ほかのお客さんと被ることなくにその方だけと向き合って話をします。
コロナの時代になってからはこのような形式もかなり一般化しましたが、この設計事務所では15年も前から同様のスタイルでやってきたそうです。
「有料で見学してもらうわけだから、しっかりと予約制にしておもてなしもしたい」
これが社長の考え方で、2008年から全く同じ形式で現場見学会を行ってきました。
② 設計事務所の社長がすべてに対応する
設計事務所なので営業マンと名のつく社員がいないこともありますが、集客DMなどには必ず「私が責任をもってご対応します」と明記してあります。
③ 来場者だけのマル秘動画プレゼント
2016年までは社長が住宅建設における注意点などを盛り込んだ動画をDVDに落として来場客にプレゼントしていたとのこと。
2016年以降はYouTubeサイトを立ち上げ、そこへ限定動画としてアップしたものをお客さんにプレゼントしています。
どのくらいの来場があるのか?
問題はこれでしょう。
結論を先に述べますが、一般的な現場見学会と比較しても実質的には遜色ない来場者数がありました。
もちろん、これは平均値で、来場が一件しかないような現場見学会もあったらしいですが、最高の来場者数は2日間で7組も来たそうです。
「最高で7組だけ?」
このような声も聞こえてきそうですが、よく考えていただきたいのはこの現場見学会が有料という事実です。
家を見るのにわざわざ3,000円を支払ってまでやって来たお客さんですから、そのほとんどは極めて真剣に家づくりを考えている方なのです。
SランクやAランクのお客さんと言えばいいでしょうか。
事実この7組のお客さんの来場があったときの内訳は、1組を除いて残りのお客さんが、一年以内に家を建てたいという超ホットな方ばかりだったそうです。
残る1組もすぐにはやらないというだけで、2~3年後には具体的に業者を決めて建築したいというお客さんでした。
現場見学会を一回でもやった方であればお分かりになると思いますが、こんなに濃いお客さんが、これだけやってくる現場見学会など普通はありえません。
有料にすることがお客さんの心理的ハードルを下げる
「無料は警戒される」
これはビジネスにおける大原則ではないでしょうか。
極端な話をすれば百円でも構わないと思います。
ただで見せてもらうのではなくて、お金を払って見学をしているのだから、お客さんとしては堂々と見せてもらうことができるわけです。
この心理はお分かりになるでしょう。
実はこの設計事務所の社長、大学は建築学科だったものの心理学にものめり込んで勉強したそうです。
勉強して身につけたことをビジネスで実践した結果がこの有料による現場見学会とのことでした。
筆者も同じような経験をしたことがある
私は現在住宅営業コンサルタントとして、工務店や地域の有力ビルダーの営業指導に向き合っていますが、仕事がまだ軌道に乗らなかったスタート時にはさまざまなバイトを経験しました。
セミナーではたまに話すのですが、ミサワホームの工場で数ヶ月だけですがパネルを作ったことがあります。
「ミサワホームのパネル工場で働いた経験のあるコンサルタントなんてきっといないだろう」
将来的にいい話のネタになるはずだ、と思いながら結構楽しく働いていました。
実際にミサワホームでは東北を中心に営業研修行ってきましたが、 そこにいる営業マンよりもパネルの構造については私の方が圧倒的に詳しいわけです。
ましてや、電動ドリルを持ってミサワホームのパネルに穴を開けた経験のある営業などはただの一人もいませんでした(笑)
産廃処理業者でもしばらくアルバイトをしたので、家を解体する現場にも私は立ち会ったことがあります。
その当時、敢えてこのような仕事を探して応募していました。
着物の訪販会社での貴重な体験
私は着物の知識もあります。
基本的には住宅関連のアルバイトを選んでやっていたのですが、全く関係ない職種の営業職を経験するのも必ずプラスになると考え、求人紙に載っていた着物の訪販会社に突入したのです。
なかなかやくざっぽい雰囲気がプンプン臭う会社で「ちょっとだけ覗いたら退散した方が良いな」と思ったのですが、なんだかんだと3カ月間ほど在籍しました。
先輩たちと一緒に車に乗って着物を売り歩いたり、あるいは着物の即売会を行ってそこに女性を呼んで販売を行うのです。
着物の訪販などをどうやるのかと思われるかもしれませんが、やはりそれなりのテクニックがあって、先輩と一緒に回ると玄関を開けてくれる奥さんが現れ、そこそこの値札がついた着物が売れていくから驚きです。
私はこれを目の前で見ていたのですが、住宅販売とは全く関係ないとはいえ、極めて興味深い経験をさせてもらいました。
また、展示会も3回経験したのですが、なんとその入場料が3,000円だったのです。
ただし、お土産として3,000円相当の履物をつけていました。
ですから、お客さんとしてはそれで充分にペイをするわけですが、 3,000円を払っている事実がある種の後ろめたさをなくして気楽に参加できるようになっていたのです。
当時社長にそのあたりを訊ねるとこう答えてくれました。
「あのな、森君。ただほど高い物はないって言うだろう。ただで履物をプレゼントなんてしたら、みんな警戒するじゃないか。あのように3,000円をとることで、お客さんが気楽になってやってくるんだよ。不思議だろ?」
まとめ
かなり特殊な追客の事例をご紹介しました。
お客さんをイベントに呼ぶのは無料が当然ですし、それに加えてお土産までつけるのが一般的なやり方です。
ところが今回ご紹介した内容は、お土産はいいとしてもお客さんからお金を取るという全く真逆の発想です。
私は経験しているので面白いと言えるのですが、皆さんはいかがでしょうか。
やってみる価値は充分にあると思います。