有料の現場見学会で濃い見込み客を集める|設計事務所T社の追客事例

住宅会社が現場見学会に、建てるか建てないか分からないお客さんや景品目当てのお客さんをたくさん集めても、そこから追客するお客さんを選ぶのは難しいものです。
東海地方の設計事務所T社は、案内はがきに「見学料3,000円」と書いた有料の現場見学会を2008年から続けています。来場が最も多かった回は2日間で7組で、そのうち6組が1年以内に家を建てたいお客さんでした。
本記事では、T社の有料の現場見学会の仕組みと来場の実態、お金を取ると来場のハードルが下がる理由を解説します。
工務店の追客を楽にする有料の現場見学会という発想
私はある出版社からの依頼で、東海地方に本社を構えるT社を取材しました。
T社は正確には工務店ではなく設計事務所です。
社長はいかにも建築士の先生という風貌の方で、アシスタントを含めても5人体制のこぢんまりとした典型的な設計事務所です。
T社の社長は、集客方法からプレゼンテーションまで、さまざまな営業手法に工夫を凝らしていました。
中でも私が興味を持ったのは追客の考え方です。
厳密には現場見学会の集客の話になりますが、社長はたくさんの人を集めるのではなく、追客しやすい濃いお客さんを集めるやり方を編み出していました。
T社の社長は、私にこう切り出しました。
「建てるか建てないか分からないお客さんや景品目当てでイベントにやってくるお客さんをたくさん集客しても、そこから取捨選択するのは結構難しいことですよね」
言われてみれば当たり前の話で、私も確かにそのとおりだと思いました。
住宅会社にとっては、建築する確率の高いお客さんを集客したほうがよいに決まっています。
社長はさらに続けました。
「それならば、イベントなどをする時に最初から確度の高いお客さんを呼べば、追客時に頭を悩ます必要はなくなると私は考えたのですよ」
私は、言うは易く行うは難しの典型だと感じました。
それができれば、どの住宅会社も苦労はしません。
しかし、T社の社長はある方法を使ってこれを実現していました。
現場見学会を開く会場の確保や、工事中に開ける見学会の進め方は、工務店の現場見学会の開催方法で解説しています。
注文住宅の現場見学会で見学料3,000円を取るT社の仕組み
T社が実現した方法は、有料の現場見学会です。私もさすがに初耳でしたし、今後も同じように有料の現場見学会を開く住宅会社に出会うことはないと思います。
私の手元には、T社の社長からもらった現場見学会の案内はがきが一枚あります。
ごく一般的な案内DMですが、裏面の右下には黒い太字ではっきりと「見学料3,000円」と書いてあります。
住宅会社にとって現場見学会でお金を取るのは怖すぎる方法で、何もそこまでやらなくてもと感じるのが普通の反応です。
その代わりにT社は、3,000円をもらう分、来場したお客さんにはそれに見合うだけのプロのサービスを提供しています。T社が用意しているサービスは、次の3つです。
- 2時間制の完全予約
- 設計事務所の社長がすべてに対応する
- 来場者だけのマル秘動画プレゼント
T社の現場見学会は2時間制の完全予約で、社長はほかのお客さんと重なることなく、1組のお客さんだけと向き合って話をします。
コロナの時期以降は予約制の見学会もかなり一般的になりましたが、T社は2008年から同じ形式で現場見学会を開いてきました。
社長の考えは次のひと言に表れています。
「有料で見学してもらうわけだから、しっかりと予約制にしておもてなしもしたい」
T社は設計事務所なので、営業マンという肩書きの社員はいません。そのため社長が来場者すべてに対応し、集客DMにも毎回「私が責任をもってご対応します」と明記しています。
1組ずつ向き合う予約制の見学会の考え方は、予約制の現場見学会の進め方で解説しています。
来場者へのプレゼントは、社長が住宅を建てるときの注意点などを盛り込んだ動画です。
T社は2016年まではDVDに落として渡していましたが、2016年以降はYouTubeのチャンネルを立ち上げ、限定公開の動画としてお客さんにプレゼントしています。
動画やSNSを使った発信の始め方はハウスメーカー・工務店のSNS集客で解説しています。
有料の現場見学会の来場者数と見込み客の内訳
有料にしても、T社の現場見学会には平均すると一般的な現場見学会と比べて実質的には遜色ない来場者数があったそうです。もちろん来場が1件しかない回もありましたが、最も多い回は2日間で7組が来場しました。
「最高で7組だけ?」
そう感じる住宅会社もありますが、T社の現場見学会は有料です。家を見るのにわざわざ3,000円を払って来るお客さんですから、ほとんどが極めて真剣に家づくりを考えている人で、SランクやAランクのお客さんと言えます。
実際に7組が来場した回の内訳を聞くと、1組を除く6組が1年以内に家を建てたいという超ホットなお客さんでした。
残る1組もすぐには建てないというだけで、2〜3年後には業者を決めて建築したいと考えていたそうです。
これほど濃いお客さんがこれだけ集まる現場見学会は、普通はありえません。
来場したお客さんの見込み度と次回アクションの管理方法は、顧客管理表テンプレートで解説しています。
見学料を取ると来場の心理的ハードルが下がる理由
「無料は警戒される」というのは、ビジネスの大原則だと私は考えています。極端な話をすれば、見学料は百円でも構わないと私は思います。
お客さんは、ただで見せてもらうのではなく、お金を払って見学しているので、堂々と家を見せてもらえるわけです。
案内の段階でお客さんの心理的ハードルを下げる方法は、現場見学会の案内動画の作り方で解説しています。
実はT社の社長は、大学は建築学科でしたが、心理学にものめり込んで勉強したそうです。社長によれば、有料の現場見学会は、心理学で身につけたことをビジネスで実践した結果とのことでした。
入場料3,000円だった着物の展示会(筆者の体験談)
私自身も、T社と同じような仕組みを経験したことがあります。
ミサワホームのパネル工場や解体現場でのアルバイト
私は住宅営業コンサルタントとして、工務店や地域の有力ビルダーの営業指導をしています。コンサルタントの仕事がまだ軌道に乗らなかった頃は、さまざまなアルバイトを経験しました。
セミナーでもたまに話しますが、私は数か月だけミサワホームの工場でパネルを作っていたことがあります。私は「ミサワホームのパネル工場で働いた経験のあるコンサルタントなんて、きっといないだろう」と考え、将来いい話のネタになるはずだと思いながら楽しく働いていました。
その後、私はミサワホームで東北を中心に営業研修を行いましたが、パネルの構造については研修先の営業マンよりも私のほうが圧倒的に詳しかったです。電動ドリルを持ってミサワホームのパネルに穴を開けたことのある営業マンは、ただの一人もいませんでした(笑)。
私は産廃処理業者でもしばらくアルバイトをしたので、家を解体する現場にも立ち会ったことがあります。当時の私は、あえてこうした住宅に関わる仕事を探して応募していました。
着物の訪販会社で見た入場料3,000円の展示会
私は住宅に関わるアルバイトを中心に選んでいましたが、まったく関係ない業種の営業職を経験するのもプラスになると考えました。そこで私は、求人紙に載っていた着物の訪販会社に飛び込みました。
着物の訪販会社はなかなかやくざっぽい雰囲気が漂う会社で、私は「ちょっとだけのぞいたら退散したほうがいいな」と思いましたが、結局3か月ほど在籍しました。私は先輩たちと車に乗って着物を売り歩いたり、着物の即売会に女性を呼んで販売したりしていました。
着物の訪販にもそれなりのテクニックがあり、先輩と一緒に回ると、玄関を開けてくれる奥さんが現れ、そこそこの値札がついた着物が売れていきました。私はその様子を目の前で見て、住宅販売とはまったく関係ないとはいえ、興味深い経験をさせてもらいました。
私は着物の展示会も3回経験しましたが、展示会の入場料は3,000円でした。
ただし、訪販会社はお土産として3,000円相当の履物をつけていたので、お客さんは入場料の分を十分に取り戻せます。
それでも3,000円を払ったという事実が、お客さんの後ろめたさをなくし、気楽に参加できるようにしていました。
当時、私がその仕組みを訪販会社の社長に尋ねると、社長はこう答えてくれました。
「あのな、森君。ただほど高い物はないって言うだろう。ただで履物をプレゼントなんてしたら、みんな警戒するじゃないか。あのように3,000円をとることで、お客さんが気楽になってやってくるんだよ。不思議だろ?」
まとめ
住宅会社がお客さんをイベントに呼ぶときは無料が当然で、そのうえお土産までつけるのが一般的なやり方です。T社の現場見学会は、お土産にあたる限定動画は渡しつつも、お客さんからお金を取るというまったく逆の発想で、追客しやすい濃いお客さんを集めていました。
私は着物の展示会で同じ仕組みを経験しているので面白いと言えますが、有料の現場見学会は工務店がやってみる価値の十分にある手法だと考えています。
ぜひ本記事のT社の事例を参考に、次の現場見学会で来場者に何を渡し、見学料をいくらにするかを検討してください。



