工務店がリノベーション受注を増やすには?30ページのヒアリング帳

新築が先細りし、住宅業界の主軸はリフォームとリノベーションに移りつつあります。ところが、私が営業現場を見ていると、営業社員はお客さんの「和室はそのまま綺麗にしたい」という言葉に「わかりました」と返すだけで、商談がそこから広がらないケースが圧倒的に多いです。
単価の高いリノベーションを受注するには、工務店はホームページに具体的な事例を載せ、商談では他社の主張も交えた情報をお客さんに差し出し、ヒアリング帳を使って聞き取りの質を高めます。都内の小規模工務店A社は、30ページほどのヒアリング帳を使った聞き取りの訓練を徹底しています。
本記事では、2つの会社の事例と私の積水ハウス時代の経験をもとに、工務店がリノベーション受注を増やすための仕掛けを解説します。
工務店がリノベーション受注に目を向けるべき理由
私は様々な媒体に寄稿しており、テーマの決まり方には、私が自由にテーマを選んで書く場合と、依頼主からテーマを指定されて書く場合の2種類があります。
本コラムの依頼主である工務店のミカタさんは「テーマは自由にあなたで決めてください」というスタイルです。
その一方で、テーマはもちろん、文章の構成に至るまで明確な意図を持って要望を伝えてくる依頼主もいます。
先月末、ある大手出版社系のウェブサイトから私に2本の記事依頼があり、私は昨日それを納稿しました。
依頼主が指定した2本のテーマは、リフォームとリノベーションでした。
依頼主が指定するテーマの移り変わりを追っていくと、住宅業界の今の実態がよく分かります。
新築は先細りし、住宅業界の主軸はリフォームとリノベーションに移りつつあります。
中でも工事単価が高く利益も多く取れるリノベーションには、多くの工務店が注目しています。
東京などでは古いマンションを買って大規模リノベーションをするお客さんが増え、業者もそれを積極的に推進するようになりました。
私への執筆依頼にリフォームやリノベーション絡みのテーマが急増したのも、こうした事情が背景にあると私は考えています。
工務店や住宅会社は、あらためてリフォームとリノベーションに目を向けるべきです。これまでに家を建てたお客さんから改修工事を受注する進め方は、工務店のリフォーム受注の進め方で解説しています。
リノベーション会社としてお客さんに選ばれるための条件は、選ばれるリノベーション会社の必須条件で解説しています。
リノベーション受注につながる工務店ホームページの実例提案
リノベーションを考えるお客さんが工務店に期待するのは、今の生活スタイルに合わなくなった間取りをこれからの生活にぴったり合うように変えられるかどうかと、好みのデザインが実現されるかどうかの2つと考えてよいです。
間取りのほうは幅広い分野にまたがりますが、工務店はホームページを見たお客さんが「この会社なら満足させてもらえそうだ」と感じる匂いを出す必要があります。
そのために工務店のホームページに必要なのが、ケースバイケースの実例提案です。
65歳の夫婦のマンションを想定した事例を載せる
例えば、65歳の夫婦が所有するマンションがあったとします。
夫婦の子供2人は10年ほど前にすでに独立して家を出ています。
子供部屋だった2部屋は空き部屋兼物入れの状態になっていて、夫婦にとっては無駄でもあり、雑然として落ち着きません。
こうした悩みを抱えた方は世の中に無数にいるので、工務店のホームページには同じような状況のお客さんのリフォーム事例を載せるのが理想です。
手広く工事をしている工務店であれば事例が複数あるはずですが、これからリノベーションに力を入れる工務店には、そのような事例がまだありません。
その場合は、架空の設定で構わないので、工務店はこのようなお客さんを想定したリフォームの考え方や間取りの例を掲載すれば良いのです。
「どのようなご要望にもお答えします」では具体性がない
【どのようなご要望にもお答えします】
工務店のホームページで一番いけないのが、この書き方です。
この一文は大きく網をかけているように見えて、具体性が全くありません。
マーケティングの原則から言えば、工務店のホームページに載せた具体的な事例を見て、お客さんが「私たち夫婦もまさにこれだ」と思えるかどうかで反応が決まります。
展示場の和室に学ぶデザインの幅の見せ方
デザインも重要ですが、お客さんの好みは千差万別なので、工務店がおしゃれだと思ったデザインだけを一方的に押し付けるのは危険です。
私の仕事には住宅展示場のデザイン作成や運営戦略も含まれており、その中で私が最も重視することの一つが、住宅会社がこれまで建ててきた建物の外観や内観のパーツを、住宅展示場のどこにどう配置するかです。
さらに、色々なデザインの外観と内観をアピールすれば、住宅会社が様々な要望に応えられることをお客さんに示せます。
住宅展示場をコテコテの洋風で建てていても、今までに手掛けた和室の事例などを充実させて掲載します。
ある全国区の著名な住宅メーカーは、一般的には洋風の家の会社だと認識されています。
しかし、その住宅メーカーの住宅展示場で和室に入ると、昔ながらの大工が凝りに凝って作ったような造作が目に飛び込んできます。
お客さんは、ものすごいギャップを感じるはずです。
さらにその住宅メーカーは、コテコテの和室だけでなく、現代風にアレンジした和室もできることを、実例写真で並行してアピールしています。
昔ながらの立派な和室が欲しいお客さんは、住宅展示場に入るまで和室にさほど期待していないものの、この仕掛けを見ると「これはすごい!」となります。
分かりやすいので和室を例にしましたが、お客さんの好みは書院造りの和室が欲しい人から和室なんて不要だという人まで、実に幅広いです。
住宅展示場を持っていない工務店はここまではできませんが、このエッセンスを自社のホームページに盛り込んでください。
ホームページでおしゃれな改修ができることを見せ、OB施主からのリフォーム受注を増やす対策は、工務店ホームページのリフォーム受注対策で解説しています。
ネットで集めた情報をリノベーション商談に挟む
建築のプロを自認する工務店の経営者や営業社員は、インターネットで他業者の主張やお客さんの声を集めているでしょうか。私が住宅会社の経営者であれば、インターネットで徹底して情報を集めます。
検索で他社の営業トークを集める
私は検索サイトに「和室・リノベーション・後悔・成功」といった単語を色々と組み合わせて入れ、出てきたサイトにくまなく目を通します。あるリフォーム会社のサイトには、次のような記述がありました。
60代の夫婦には和室をなくすリフォームやリノベーションを極力勧めています。
そのリフォーム会社が挙げる大きな理由の一つは、60代以上になると抵抗力が若い頃より落ちてくるため、畳に入り込んだホコリやダニなどが健康に悪影響を与えるケースが多数報告されている、というものでした。これはあくまでそのリフォーム会社の主張であり考え方ですが、話の筋が通っているので、営業トークとしてそのまま転用できます。
私はさらに、医療関係のデータやホームページを引っ張ってきて、ダニやホコリが健康に与える害や、60代以上がかかりやすい病気などをしらみつぶしに調べます。その中から、和室はなくしたほうがいいという結論に沿うデータを探すのです。
集めた情報をお客さんへの提案にまとめる作業でChatGPTを使う方法は、ChatGPTのリフォーム提案業務への活用方法で解説しています。
御用聞きの会話に一言足す
最終的に判断するのはお客さんですが、実際の営業現場では次のような会話が圧倒的に多いです。
営業「今のお宅は和室がありますけども、これはそのままリフォームされますか?」
客「そうだね……和室はあった方がいいので、これは同じような広さでそのまま綺麗にしたいかな」
営業「はい、わかりました」
一見すると、営業社員は何も間違っていませんし、大きなミスをしたわけでもありません。
ただ、私は営業社員に、この場面で先ほどのリフォーム会社の主張のような話を挟み込んでほしいのです。
営業社員は「このような話もありますよ」という視点で伝え、お客さんに強要も強制もせず、あくまで情報として提供します。
こうした会話を商談のたびに挟んでいくことが、リノベーション受注の第一歩になると私は考えています。
「この会社は引き出しが多いな」
よく言われることですが、お客さんにこう思ってもらうことが私の結論です。御用聞きをしている営業社員は、いつまでたっても大きなリノベーション工事を取れません。
都内のA社がリノベーション受注に使う30ページのヒアリング帳

東京都内に、リノベーションを非常に得意とする小規模工務店があります。
その工務店は、リノベーション工事そのものだけでなく、リノベーション工事を受注することも得意です。
ここではA社とさせていただきますが、A社は都内、特に都心部で中古マンションを買ったお客さんのリノベーションに焦点を当てた営業戦略を取っています。
私はA社を直接知っているわけではなく、A社と極めて親密に付き合っている方(以下、某氏)からの情報ですが、中身は極めて正確だと考えています。
お客さんが「びっくりするぐらいよく聞き取ってくれた」と言うヒアリング
A社の営業社員は、お客さんからのヒアリング能力が高く、実に詳細に聞き込むそうです。A社と契約したお客さんは、全員が「私たちの要望をびっくりするぐらいよく聞き取ってくれた」という感想を持つといいます。
A社のやり方を支えているのが、ヒアリング帳の存在です。
ヒアリング帳は営業社員の虎の巻とも言えるもので、リノベーションにあたってお客さんから聞き取らなくてはならない項目がびっしり書かれているそうです。
私は実物を見ていませんが、某氏によると全部で30ページほどあり、内容が実に事細かに記されているとのことでした。
尋問調にならないためのロールプレイング
ただし、営業社員がヒアリング帳の項目を1から100まですべてお客さんに聞いていては、受注はほとんど取れません。そんなことをされたら、お客さんはたまったものではないからです。
A社では、営業社員同士がヒアリング帳を使い、尋問調にならないようにいかに自然にヒアリングするかというロールプレイングを徹底して訓練しているそうです。
営業社員はすべての項目を網羅できるわけではありませんが、お客さんとの会話のやり取りから「この項目については3番だな……」と当たりをつけ、手元で素早くチェックを入れていきます。
某氏は、このやり方がお客さんの満足度を高める究極のポイントだと言っていました。
積水ハウス時代にも同じような虎の巻があった
某氏の話を聞いて私が思い出したのは、積水ハウスの現役時代にも同じような虎の巻があったことです。積水ハウスほどの大会社になると、本部主導で作った営業ツールが支店に次から次へと送られてきますが、営業現場を考えずに作られた資料も多く、その虎の巻も支店では全く使われていませんでした。
しかし、私はその虎の巻をデスクの引き出しに入れておき、商談の前によく目を通していました。
復習や確認と言ってもよいですが、私は虎の巻をセルフチェッカーとして使っていたのです。
ヒアリング帳を作れば、営業社員の聞き漏れを防げるうえに、ヒアリングの質も上がります。
初回接客で押さえるヒアリングシートの項目は、住宅営業のヒアリングのコツで解説しています。
長崎の建材会社が使うリフォーム用の虎の巻
私が現在お付き合いしている長崎の建材会社は、リフォームの元請け工事も受けています。
その建材会社で使われているのが、まさにA社と同じような虎の巻です。
中身は長崎の建材会社独自のものですが、趣旨はA社と全く同じで、営業社員が虎の巻を見ながらお客さんにヒアリングすると、質の高い営業折衝ができるようになります。
私の手元には、長崎の建材会社の社長から頂いた冊子があります。
その冊子には、トイレのお困りごとの見分け方や、現地調査(現調)に行ったときにトイレで何を見ればよいかなどが事細かに記されています。
現調のアポを取るまでの段取りは、住宅営業のアポ取りのコツで解説しています。
まとめ
新築が先細りする中、工事単価が高く利益も多く取れるリノベーションに、工務店はあらためて目を向けるべきです。リノベーション受注を増やすには、ホームページに具体的な実例提案を載せること、インターネットで集めた情報を商談に挟んで「引き出しが多い会社だ」と思ってもらうことが出発点になります。
中でも私が一番伝えたいのは、A社や長崎の建材会社が使っているヒアリング帳です。ヒアリング帳を作るには手間がかかりますが、営業社員の質が断然上がり、それに伴って単価の高いリノベーションの受注が増える可能性が高まります。
ぜひ本記事のA社と長崎の建材会社の事例を参考に、自社のヒアリング帳づくりを始めてください。



