2023年10月にインボイス制度が導入されます。
多くのひとり親方と取引されている工務店においては、社内での対応検討のほかに、それぞれのひとり親方との話し合いが必要となるケースも多々あると考えられます。
今回は、インボイス制度の概要と工務店社内で検討するべき内容、ひとり親方と説明の上、打合せするべき内容について徹底解説します。
この制度を機に、ひとり親方から社員大工へと切り替えることで双方にとってメリットが大きい場合もありますので、検討するための参考となれば幸いです。
インボイス制度についての概要
まず初めに、インボイスとは?について簡単に解説します。
インボイス制度とは、「従来の請求書に税率と税額を正確に伝えるために必要事項を追加した請求書」のことです。
これによって、仕入れ先が発行するインボイスがなければ、仕入れ税額控除が受けられなくなります。
請求書を発行する側ではなく、受け取る側にとって、今まで経費申告できていた消費税ができなくなってしまうため、非常にシビアな問題です。
◆課税事業者と免税事業者の違い
課税事業者とは、消費税の納付義務のある事業者です。課税売上高が1,000万円を超えると課税事業者となります。
免税事業者とは、消費税の納付を義務のない事業者です。課税売上高が1,000万円未満の事業者が免税事業者となります。
ただし、売上高が未達の場合でも消費税の申告をして課税事業者となることも可能です。
ひとり親方の場合、年収1,000万円以上超える収入があると課税事業者となりますが、今まで払う必要のなかった消費税を払う義務が発生するため、手取り収入が下がってしまい、課税事業者を受け入れることが難しいのが現状です。
◆インボイス発行事業者とは
インボイス発行事業者とは、インボイスの登録を申請した課税事業者です。
インボイス制度導入後は、仕入れ税額控除をするには、インボイス(適格請求書)が必要です。
インボイスは、インボイス発行事業者のみが発行できます。
よって、インボイスを発行するためには、今まで免税事業者としてやってきた場合も課税事業者となることが必要です。
◆インボイス制度導入による変更点は?
(1)インボイスを発行するためには「インボイス発行事業者」の登録申請が必要です。
登録した場合、元々免税事業者だった場合も課税事業者となり消費税の申告が必要となります。
(2)請求書に必要な記載内容が追加されます。
◎従来の請求書の必須記載内容
① 発行者の名称(または氏名)
② 取引年月日
③ 取引内容
④ 税率ごとに区分して合計した対価の額
⑤ 受領者の名称(または氏名)
◎インボイスで追加が必要となる内容
⑥ 登録番号
⑦ 適用税率
⑧ 税率ごとに区分した消費税額
(3)販売側の消費税仕入れ税額控除する時、インボイスが必要となります。
請求書を受け取る側(支払いする側)が、消費税の仕入れ税額控除をするためには、請求する側のインボイスが必要となります。
請求者が免税事業者の場合はインボイスを発行できません。
このように、今まで支払わなくてよかった消費税を納めることで、収入が下がることや、請求書発行・経理などの事務手続きがややこしくなることなど、ひとり親方にとってメリットよりもデメリットが大きいと感じる人は多いようです。
工務店に及ぼす影響
インボイス制度が始まることで、考えられる工務店への影響について解説します。
◆自社が課税事業者となる場合
仕入れ税額控除を行って消費税を納付します。
しかし、ひとり親方を含む取引先(請求書を発行する側)からインボイスをもらえない場合、仕入れ税額控除が受けられません。
そのため、インボイスを発行しない免税事業者との取引の場合、消費税負担が増加して利益を圧迫する可能性があります。
ただし、経過期間である2026年9月までは80%の控除、2029年9月までは50%の控除が可能です。
◆自社が免税事業者となる場合
免税業者であれば、消費税が免税されますが、インボイスの発行ができません。
その分、取引先となる元請会社が消費税を負担することとなります。
場合によっては、取引内容の見直しや取引中止の話し合いをすることとなります。
◆課税事業者だが、インボイスの登録申請を行わない場合
課税事業者すべてがインボイス発行事業者となる義務はありません。
ただし、登録申請を行わなければインボイスの発行はできないので、元請会社で消費税負担をすることとなります。
◆消費税の負担をどこで解消するか
インボイス制度導入によって、今まで免税事業者だったひとり親方の消費税負担をどこで負担するかといった問題が出てきます。
パターン1:ひとり親方がインボイス発行事業者となり課税事業者となる場合
自社の収益に影響はありませんが、今まで免税されていた分を含めると手元に残る金額が減ってしまうため、生活が脅かされるケースも出てきます。
自社よりも単価の高い他社の現場へ流出してしまう可能性もあります。
パターン2:ひとり親方がそのまま免税事業者となる場合
ひとり親方の手元に残る金額が変わりませんが、その分自社の負担額が増えます。
どちらにしても免税されていた分の消費税をどこで負担するかの話し合いが必要です。
考えられる方向性は下記の通りです。
- 工務店で負担する・・・利益が減少するので、コストダウンや経費削減などで補う必要が出てきます。
- 職人単価の見直しに協力してもらう・・・職人が離れてしまい、現場が成り立たなくなる可能性があります。
- 売価に反映することで顧客に負担してもらう・・・契約済の物件について追加料金の承諾をもらうことが難しいことや売価の上昇によって契約数が下がってしまうことが考えられます。
◆事務処理が複雑になる
インボイス制度導入によって、事務処理や経理システムの見直しも必要です。
◎元請(請求書を受け取る側)として増える処理
(1)新規取引先がインボイス発行事業者かの確認が必要となります。国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトで確認ができます。
(2)免税事業者と課税事業者で分別して、経理処理が必要となります。
(3)インボイス登録番号を手書きで書き足すひとり親方もいることが想定されるので、都度正しい番号が記載されているかの確認が必要となるでしょう。
(4)端数処理のルールが変わるので正しくなされているか、確認が必要です。手書き処理しているひとり親方については特に注意が必要です。
(5)経理処理システムを利用している場合は、インボイス対応のものに入れ替えます。
(6)経過措置期間中、免税事業者からの請求書の控除割合が変更となるので、都度変更が必要です。
◎下請(請求書を発行する側)として増える処理
(1) 追加内容を記載した請求書式に変更しなければなりません。
(2) 発行したインボイスは7年間保管する義務があります。ただし、紙媒体によるコピーではなく、電子データや一覧表形式、複写式の控えなども認められるので、保管方法を検討しましょう。
(3) 端数処理のルールが変わって1枚のインボイスごとに端数処理を行うようになるので、現在明細行ごとに端数処理をしている場合は変更が必要です。
ひとり親方である職人への説明と打合せ内容
前項の問題点を踏まえて、ひとり親方として個人で仕事をしている職人にどういった説明や打合せが必要であるか紹介します。
独占禁止法に抵触しないために、「インボイス発行を理由に単価改定を強行しようと脅されている」印象を受けさせない話し方や説明方法を慎重に検討しましょう。
◆インボイス発行事業者となる場合とならない場合のメリットとデメリットについて、あくまでも「客観的な一般論」となる内容を説明しましょう
◎インボイス発行事業者になるメリットとデメリット
メリット・・・取引する工務店で仕入れ税額控除が使えるため、今まで通りの取引を継続できる可能性が高い。
デメリット・・・登録申請を行う手間がかかる。発行したインボイスの保管義務がある。請求書のひな形を変更しなければならない。消費税の申告や納付義務が発生するので、事務処理量が増える。消費税納付分、利益が減少するので取引単価の見直しが必要となる。
◎インボイス発行事業者にならないメリットとデメリット
メリット・・・登録申請が必要ない。請求書式の変更の手間がかからない。
デメリット・・・取引する工務店で仕入れ税額控除ができないため、取引内容を見直される可能性がある。インボイス発行事業者である新規事業者へ乗り換えられる可能性も考えられる。
◆一般的なメリットとデメリットをふまえて、それぞれの場合での取引内容について、個別に打合せをしましょう。
◎インボイス発行事業者になる場合
消費税納付分、ひとり親方の負担増となるが取引単価を上げるか据え置きかを検討しましょう。
◎インボイス発行事業者にならない場合
消費税納付を、ひとり親方の負担分もあわせて工務店で支払うこととなり、利益が減少する旨を説明します。
それをふまえて、据え置き単価でそのまま取引するか、打合せの上単価の見直しを行うかを決定します。
実質的に、専属で動いてもらっている場合は社員化する方向性もあることも打診します。
まとめ
今回はインボイス制度の概要とインボイス制度導入にともなって考えられる影響について紹介しました。
工務店の取引先とは、今までの信頼関係や年間に任せている棟数などによって、解決方法は様々かと思われます。
インボイス制度導入までに社内で検討される際の参考としていただければ幸いです。