裁判と聞くと、欠陥工事や違法建築、契約不履行など業界全体に波及するような問題を法廷で争うイメージが強いかと思います。
しかし、実際には報道でとりあげられるような健康や生活の根本を脅かすような問題や悪意を持った法令違反による裁判はほんの一握りです。
多くの裁判は、ささいなトラブルや行き違いがはじまりでだったはずが、話がこじれてしまい、当事者間では解決の糸口が見つからず、弁護士を交えての話し合いでもまとまらず、訴訟へ発展したものです。
裁判となると、解決まで長期間要することも多く、精神的にも時間的にも大きなダメージを受けます。
工務店が裁判に関わる場合の、想定される相手先ごとに起こりうるトラブルとトラブルを未然に防ぐ方法を紹介します。
顧客とのトラブル
① 工事内容や仕上がりに関すること
建築基準法に抵触しているが発覚した場合や設計ミスの場合、契約図書通りの施工がなされていない場合は、工務店の責任において手直しするべき事項です。
追加変更契約書にサイン押印なく行った追加工事についてもトラブルになりがちです。
費用負担について、追加工事を依頼された認識でいたら、顧客からやらなくていい工事を勝手にやって費用を請求されたといったクレームが起こる場合もあります。
② 工期に関すること
顧客は、契約書に記載された引き渡し日に合わせて、賃貸住宅の解約、引っ越し手配、子どもの転校手続き、建て替えの場合は仮住まいの準備などを進めています。
工期遅延が、職人不足、施工ミスによるやり直しなど工務店の過失による場合損害賠償請求を請求される場合や、契約解除の申し立てをされる可能性があります。
また、顧客側の都合による入金遅れで工事をストップしていたり、大幅な追加変更工事が契約された工期で完成が難しい場合は顧客側の責任となりますが、未入金理由を工務店のトラブルが原因であえて入金していないと主張している場合や、追加工事を口約束で受けてしまっていて工期の延長について書類を交わしていない場合は工務店の責任を追及してくる場合もあるでしょう。
③ 支払いに関すること
工事代金の支払いが明確な理由や報告のないまま遅延している場合、入金されるまで引渡ししません。
未入金の大元の原因は、他の建築トラブルにあり解決するまで入金を拒否しているケースも多くあります。
④ 引渡し後に発覚した不具合箇所について
構造に関する部分や漏水など雨水浸入に関しては、引き渡し後10年間瑕疵担保責任が発生するため、その部位の補修や手直しの対応が必要です。
しかし、通常補修で対応するべき内容にも関わらず、建替えを強要されるなど、明らかに過剰な対応を希望され、解決に向けた話し合いができなくなった場合、訴訟に発展する可能性が大きいです。
⑤ 解約に関すること
双方合意の下で解約する場合は問題ありませんが、どちらか一方が解約を主張している場合、違約金の扱いや手付解除での解約など様々な点で金銭的な確執が残ることも多くあります。
また、顧客側の理由で工事中に解約した場合、法令上は途中まで出来上がった建物に対する支払いを請求できます。
また、自社地に建築している顧客の場合は、建物と同時に土地も解約となる内容で契約している場合が大半です。
出来高分に対すル支払いについてや自社地の扱いについてはトラブルとなる可能性が大きい部分です。
元請け会社とのトラブル
① 契約内容に関すること
契約内容にない追加の施工を押し付けられた場合や明らかに契約条件が対等でなくどちらかが不利益を被る内容であり、当事者間で調整できない場合が考えられます。
② 支払い遅延に関すること
顧客からの入金が遅れているなどの理由によって、工事代金の支払いがなされない場合などが考えられます。
③ 発生した不具合の責任の所在に関すること
顧客とのトラブルは、トラブルの大元の原因の所在を明らかにする必要がありますが、正当な理由なく押し付けられてしまう場合などが考えられます。
下請け会社とのトラブル
① 契約内容に関すること
大幅な追加工事を依頼しているにもかかわらず、スケジュールを変更していない場合、また、契約した工期の中で工事が完了していない場合の取り扱いなどが原因となるケースがあります。
② 支払いに関すること
元請け会社の資金繰りの悪化などによって、売掛金の支払いが遅延する可能性が考えられます。
また、追加工事代金の負担先や、補修工事代金の負担先がどちらにあるかなどももめる要因です。
③ 発生した不具合の責任の所在に関すること
施工ミスの原因がどこにあるかについて、また、過失割合についてトラブルに発展する可能性があります、一般的には下請け業者の施工ミスの場合でも、元請け業者に監督責任が生じることが多いです。
建築トラブル発生から裁判までの流れ
建築に関するトラブルが発生から訴訟までの流れは下記のような流れになることが一般的です。
① 現場の状況を確認する
まず、クレームの起きた部位について現地で状況確認を行います。
また、施工当時の写真と現状を比較して、トラブルの原因を突き止めます。
また、契約時~これまでに交わした書類や打合せ記録などもくまなくチェックしておきましょう。
② 関係法令の確認
不具合の内容や築年数などから、責任の有無を確認します。
工事請負契約書や契約時の工事契約約款、設計図書などと照らし合わせて、分析します。
顧問弁護士へ相談して、これまでの判例を踏まえつつ今後の方針についてアドバイスを受けます。
③ 示談交渉
法律的な観点からの分析結果を踏まえて相手方とのトラブルの解消の交渉を行います。
保守内容や不具合部分の提案、費用負担についても提案します。
④ 裁判外紛争処理手続きの利用を検討
示談交渉がまとまらない場合、建築ADR(裁判外紛争処理手続き)の利用を検討し、必要があれば手続きします、訴訟よりも迅速な解決が期待できます。
⑤ 訴訟
訴訟は裁判所の判決によって紛争を解決する法的な手続きです。
双方の主張が平行線や大きくかけ離れている場合、訴訟による手続が必要となります。
訴訟を申し立てると、相手方に訴状が送られ、呼出状に記載された期日に出廷する必要があります。
⑥ 出廷
双方の主張が検証されたのち「和解」または「判決」によって解決がもたらされます。
まとめ
工務店に関わる裁判の原因となりえる事由と訴訟の流れについて紹介しました。
トラブルの原因のほとんどは行き違いや思い込み、打合せ不足によるものが発端です。
その理由は、過失先が明らかな場合、過失先の責任において解決に向けて協力体制をとることができるためです。
逆にいうとことの発端や原因がどこにあるのかが食い違うためトラブルに発展してしまうと言えます。
- 打合せ記録や契約書類に署名押印してお互いの同意を確認すること
- 契約した内容通りに進めることが難しい場合、早期に報告相談して解決策を見出すこと
- 客観的な視点を持って責任を押し付け合うことなく、責任の所在を協力して解明すること
- 後日トラブルが起きた際に備えて、契約内容や顧客とのやり取りなどの情報を顧客ごとにまとめていつでも取り出せるようにしておくこと
- お互いを尊重して交渉できるような信頼関係を築くこと
こういった些細な確認や交渉によって防ぐことができるものがほとんどです。
「言った言わない」「頼んでないのに…」「無償対応だと思っていた」などのやりとりをしなくていいように、日ごろからトラブルを発生させない行動をとるように心掛けましょう。
建築トラブルへの対応や顧客とのやりとり、業者フォローする際の参考としていただければ幸いです。