工務店経営の課題は着工減|2040年50万戸割れでも動かない社長

建材会社の営業社員が工務店の社長に新築着工数の激減を話しても、社長は「目先の受注は何とかなっている」と、うるさそうに聞き流しています。私がグループLINEで読んでいる建材会社の日報には、こうした報告が上がってきます。
工務店経営の課題は新築着工数の減少で、着工数は2040年に50万戸を割り込むと想定されています。それでも一定数の小規模工務店の社長は「今のところ集客には困っていない」と考え、正常性バイアスに陥っています。
本記事では、工務店社長の現状認識に表れる経営課題と、小規模工務店が集客の数字を読み違える理由、今から打つべき手を解説します。
工務店経営の課題は新築着工数の減少(野村総合研究所の予測)
新築着工数はこの先じりじりと下がり続け、2040年には50万戸を割り込むと想定されています。この予測は小規模な工務店の社長の耳にも入っている話ですが、むしろ小さな工務店ほど切実な問題です。
野村総合研究所は、新設住宅着工戸数の予測データを発表しています。
野村総合研究所のグラフはもはやおなじみのデータですが、私が工務店経営者であれば背筋が凍るような、恐ろしい右肩下がりのグラフです。野村総合研究所は、振れ幅はあるものの、2030年には着工数が63万戸から68万戸の間に落ち着くと見ています。
経営課題を軽く見る工務店社長の言葉(建材会社の営業の日報から)
最近、私の仕事の比重はすっかりZoomに移りましたが、リアルの仕事も徐々に回復してきました。私は工務店の営業社員と直接やり取りすることが多い一方で、工務店をお客さんとする業界の営業社員とも、Zoomで積極的にやり取りしています。
やり取りの相手は建材、電力、水回り、照明、銀行といった業種の営業社員で、どの業種も工務店を大事なお客さんとして、日々工務店に顔を出しています。営業社員は自社の商品を少しでも売ろうと必死に営業していて、その力を引き上げる手伝いも私の業務の一つです。
ある建材会社では営業社員が日報をグループLINEに上げていて、私もその日報を読んでいます。日報には、営業社員の先にいる工務店社長の現状認識に、私が驚かされる内容が書かれていました。
「H工務店の社長に対して新築着工激減の話をするものの、聞く耳を持たず。分かってはいるけどもとりあえず目先の受注は何とかなってるから、うるさそうに私の話を聞いている」
日報を要約すると、このような報告でした。
報告がごくまれなものなら問題ありませんが、私は一定数の小規模工務店の社長が同じような認識を持っている気がしてなりません。
私がそう考えるのは推測からではなく、日報で上がってくる報告に加えて、直接・間接に同じような話をあちこちから耳にするからです。
着工数の予測を知らない社長の実例と、取引業者や専門誌を使った情報の集め方は、工務店社長の情報収集の方法で解説しています。
動きの遅い工務店社長に私からあえて言いたいこと
頭では分かっていても、なかなか舵を切れない工務店社長は多いと私は感じています。本記事を読んだ工務店の社長には、目先の受注で安心する考え方をすぐに切り替えてほしいと、私は強くアドバイスします。
工務店社長は当面の受注が見えているので安心しているかもしれませんが、新築着工数の激減がこれだけ明確に予測されているのですから、体力のあるうちに方向性を決める必要があります。
現在の住宅業界には、全国区の大手ハウスメーカーから一人親方まで、無数の住宅会社があります。
国土交通省はこれらすべてを管理する立場にありますが、膨大な数の住宅会社の中身まで把握することは到底できません。
そうなると、把握する国土交通省の立場からすれば、小さな規模の住宅会社の数がある程度減った方が楽だとも言えます。
私があちこちから集めた情報をまとめると、新築着工数の激減に合わせて住宅会社が淘汰されるのは既定路線です。今の社長の代で工務店を終わらせるつもりなら問題ありませんが、今後30年、40年と会社を存続させて発展させるなら、社長が早く目を覚まして動かなくては手遅れになります。
小規模工務店の社長が「集客には困っていない」と言う理由
中規模以上の住宅会社ではすでに集客が減っている
中規模以上の住宅会社では、集客が減ってきたという問題がはっきり表れています。私は住宅FCの本部とも連絡を取り合っていますが、先日、某住宅FCの幹部と話したところ、幹部は「加盟店が軒並み集客に困っている」と漏らしていました。
分母が4組だと景気の悪化が数字に表れない
一方で、極端に小さな工務店には、年間2棟しか建てない住宅会社もあります。その工務店は2棟で十分に損益分岐点を超えるため、数年続けてたまたま2棟ずつ成約できると、社長は「来年もこんな感じでいくだろう」と根拠のない自信を持ってしまいます。
工務店の規模に合う年間受注棟数を利益率から考える方法は、工務店の規模別の受注棟数と利益率で解説しています。
たとえば、前年度に1,000組の住宅展示場来場者があった住宅会社で、今年度の見込みが800組になったとします。
そうなると、社長はこの数字を深刻にとらえるでしょう。
ところが、毎年4組のお客さんと話をして、そのうち2組と契約してきた小規模工務店では事情が違います。
住宅市況が冷え込んでいても、その年もたまたま4組と商談できると、社長は「集客はいつも通りで全然困っていないよ」と楽観視してしまうのです。
分母が1,000組あれば景気の変化は数字に表れますが、分母が4組しかなければ、景気が悪化していても、たまたま4組と接点を持てただけかもしれません。小規模工務店の社長はそのことに気づきにくく、「今のところ集客には困っていない」という言葉が出てきてしまいます。
年間2棟の工務店が2年続けて1棟になったら
毎年4組と接点を持って2組と契約していた工務店が、その数字にあぐらをかいているうちに、翌年から3組としか接点を持てなくなったとします。
すると、毎年2組と契約できていた工務店に、1組としか契約できない年が出てきます。
年間2棟で採算が取れている工務店が2年続けて1棟しか取れなければ、あっという間に破綻しても不思議ではありません。
私は工務店社長に、毎年じりじりと下がり続ける着工数に、もっと真剣に目を向けてほしいと考えています。4組を集客して2組と契約できている今のうちに、次の一手を早急に打ってください。
建築実績が少ない小規模工務店が完成保証制度や財務、デザインで信用を得る手立ては、工務店の経営課題と信用を得る方法で解説しています。
「うちは大丈夫」と考える工務店社長の正常性バイアス
小規模工務店の社長が動かない原因は、正常性バイアスだと私は考えています。正常性バイアスは社会心理学や災害心理学で使われる心理学用語で、ウィキペディアの「正常性バイアス」の項目では、自分にとって都合の悪い情報を無視したり過小評価したりする認知の特性と説明されています。
自然災害や火事、事故、事件などといった自分にとって何らかの被害が予想される状況下にあっても、それを正常な日常生活の延長上の出来事として捉えてしまい、都合の悪い情報を無視したり、「自分は大丈夫」「今回は大丈夫」「まだ大丈夫」などと過小評価するなどして、逃げ遅れの原因となる。
着工数がどんどん減っていくのですから、工務店の数がそれに比例して減っていくのは自明の理です。それなのに工務店社長が「うちは大丈夫だろう」「おそらくなんとかなるよ」と考えるのは、まさに正常性バイアスです。
あらゆるところからデータが出ているのに、工務店経営者からは信じられない言葉が出てきます。工務店はまさに二極化していて、敏感に反応する工務店はすでに動き出していますが、正常性バイアスから抜け切れない工務店はただの一歩も動いていません。
危機感の薄さや紹介受注への依存といった小規模工務店の課題への対策は、小規模工務店が抱える課題と対策で解説しています。
工務店が経営課題に対して今から打つ手
新築専門の工務店は余力があるうちにリフォームを定着させる
私は国土交通省認定のリフォームの団体にも関わっていて、新築着工数の激減を見据え、新築専門の工務店に対して、余力があるうちにリフォームの仕事も積極的にこなして定着させるよう啓蒙しています。
住宅展示場やショールームを使ってリフォームを受注する方法は、住宅展示場のディスプレイ活用で解説しています。
まとめ
工務店経営の課題は新築着工数の減少で、着工数は2040年には50万戸を割り込むと想定されています。それでも年間4組の接点で2棟を契約している小規模工務店の社長は、分母が小さいために市況の悪化に気づきにくく、「今のところ集客には困っていない」と正常性バイアスに陥っています。
着工数の減少に合わせて住宅会社が淘汰されるのは既定路線で、受注が見えている今こそ、新築専門の工務店がリフォームを定着させる余力のある時期です。
ぜひ本記事の小規模工務店の集客の例を参考に、自社の接点の数と新築着工数の推移を並べて見直してください。



