図面を盗む客の手口|ハウスメーカー3社を手玉に取った工務店役員

図面を盗む客の手口|ハウスメーカー3社を手玉に取った工務店役員

住宅展示場に一人でふらっと来た客が、アンケートに「建築時期は早く、土地も持っている」と書いていました。

ハウスメーカーD社の若手営業が要望を聞き、図面と見積もりを作り込んで提出しました。

すると客は「少し検討させてほしい」と言ったきり、連絡をくれません。

この客の正体は、地元の家族経営工務店の役員でした。

役員のAさんは、一般客を装ってハウスメーカー3社に近づいていました。

少なくともB社とD社にはまったく別の要望を伝えて、図面と見積もりを出させていたのです。

本記事では、私が現場に入っていたハウスメーカーD社での事例をもとに、図面を盗む客の手口と、住宅営業が早い段階で見抜くための確認方法を解説します。

図面を盗む客が住宅展示場に来た経緯(ハウスメーカーD社の事例)

私がいろいろな住宅会社の現場に入り込むと、面白い事件に遭遇することがあります。

ちょっとしたことなら問題ありません。

しかしこの話は、さすがにどうなのかと思うほどひどい内容です。

業務妨害で訴えてもよいほどだと私は思っています。

登場するのは次の4社4人と、私を合わせた5人です。

  • 家族経営工務店の役員Aさん
  • ハウスメーカーB社
  • ハウスメーカーC社
  • ハウスメーカーD社(担当の若手営業F君)

若手営業F君が取った次回アポ

時期は伏せますが、ある日、総合住宅展示場にAさんが一人でふらっと来場しました。

接客したのはハウスメーカーD社の若手営業、F君です。

私は接客の様子を把握していませんでしたが、1週間後の個人面談でF君とこんなやり取りをしました。

私「F君の先週はどんな感じだったかな?」

F君「3人の方を接客しましたが、Aさんと次回のアポが取れました」

私「1件のアポだ。よかったじゃない。Aさんのアンケート用紙を見せてくれるかな?」

私がアンケートにざっと目を通したところ、特に問題はありませんでした。

建築希望時期は比較的早く、土地も持っているという内容です。

悪くない見込み客でしたので、私は具体的な指示を直属の店長に任せ、そのときはそのままにしました。

要望ヒアリングから図面と見積もりの提出まで

F君は予定どおり5日後に展示場で再びAさんと会い、要望をヒアリングしました。

私も報告書で内容をざっと把握しましたが、このときも不審な点はありませんでした。

競合があるのは当然として、住宅営業はひとまずヒアリングをしないと話を進められません。

さらに5日後、F君は出来上がった図面と見積もりを用意して、Aさんと3度目の面談に臨みました。私はこの日展示場にいたので、折衝が終わったらF君に直接様子を聞こうと待っていました。

住宅展示場のアンケート住所から図面を盗む客と気づいた場面

3度目の面談の後、私はF君とこんなやり取りをしました。

私「Aさんは会社員となっているけど、勤めはどこ?」

F君「そこまで聞いてないのですが……」

私「とりあえず自宅の住所をグーグルで調べてみよう」

自宅住所は有限会社〇〇工務店だった

住所を調べたところで、私に最初の疑問が生まれました。

Aさんの自宅住所は、「有限会社〇〇工務店」の所在地になっていたのです。

おそらく家族経営の小規模な工務店です。

Aさんがそこに勤める従業員という可能性もありました。

ところが、Aさんの苗字は〇〇工務店と同じでした。

家族経営の小規模な工務店の家族なら、本当に自宅を建てるにしても、自社で建てるのが普通です。

そこで私は、Aさんは自社の設計力やデザインに自信がないのではないかと考えました。

ハウスメーカーに無償で図面を描かせて、パクるつもりではないかということです。

建築の予定そのものがないのに施主らしく振る舞い、プランや見積もりを盗むのが目的とも想像できました。

工務店勤務の客がすべて図面目当てとは限らない

ただ、私もそうと言い切ることはできませんでした。

ある地場の有力工務店では、来場アンケートの勤務先に「〇〇工務店」と書いたお客さんがいました。

営業が当然そのことを尋ねると、当のお客さんはこう答えたそうです。

「はい、そうです。普通であれば勤務先の工務店で建てますけど、私の妻が〇〇工務店はおしゃれじゃないから絶対に嫌だって言うのですよ(笑)」

そのお客さんは、実際にその有力地場工務店と契約をして家を建てました。

勤務先が工務店というだけで、おかしな話とは言えません。

しかしAさんの場合は、勤め人ではなく工務店の家族である可能性が高い状況でした。

それなら、自宅をハウスメーカーで建てるのはどう考えても不自然です。

支店長の指示で続いた重い空気の折衝

F君とAさんの間では、こんな会話がありました。

F君「〇〇工務店にお勤めなんですよね?」

Aさん「はい……」

F君「そうですか……では、ご要望を詳しく伺います」

F君は、なぜかそれ以上は突っ込んで聞かなかったそうです。

この話は支店長にも上がりました。

しかし支店長は「そのまま話を続けてみろ。どうなるかおもしろいじゃないか」と指示を出しました。

こうして、なんとも奇妙な折衝がさらに3回続きました。

営業と客が別の意味で腹を探り合った

「折衝空間が何とも言えない重い空気なんですよ(笑)」

F君の感想ですが、そう感じるのは当たり前です。

F君は不信感を持って接客していました。

AさんはF君の不信感をはっきり分かったうえで、芝居を続けていました。

通常の折衝でも、お客さんと住宅営業は腹の探り合いをします。

しかしこのときのF君とAさんは、別の意味で腹を探り合っていたのです。

それでもF君とAさんは、表面上は一般的な折衝の体裁を保ったまま話を進めました。

完成した図面と見積もりを出した後に音信不通

F君はこのような折衝を3回繰り返し、それなりに吟味された図面と見積もりを完成させました。

F君が図面と見積もりをセットにして提出すると、Aさんは「少し検討させてほしい。また連絡します」と言いました。

それが最後のやり取りになり、以降、Aさんとは音信不通です。

ハウスメーカー3社から図面を盗んだ工務店役員の狙い

Aさんの話は、D社との折衝だけでは終わりませんでした。

B社とC社でも折衝していたことが判明した

F君はB社の営業と顔なじみでした。

F君が雑談の中でAさんのことを話したところ、B社でもAさんと折衝していたことが分かりました。

さらにB社の担当営業からの情報で、AさんがC社とも話していたことも判明しました。

決定的だったのは要望の中身です。AさんはB社には40坪の2階建てが欲しいと伝え、D社には3階建ての50坪がいいと伝えていました。

2社、3社と相見積もりを取るなら、施主はそれぞれの会社に同じ希望の間取りを伝えるのが当然です。

ところがAさんは、B社とD社にまったく異なる要望を伝えて、図面を描かせていました。

C社の情報はありません。

ただ、Aさんはおそらく3社にまったく別の要望を出して、図面と見積もりを出させたのだと私は思っています。

Aさんは家族経営工務店の役員だった

Aさんの正体は地元の零細工務店の経営者家族で、しかもその工務店のれっきとした役員でした。

役員であれば、自社以外で自宅を建てることはどう考えても考えられません。

一般社員ならありえますし、比較的規模のある工務店なら理解もできます。

しかし、家族経営に近い小規模な工務店では、やはりありえない話です。

盗みたかったのは設計と見積もりとプレゼンのノウハウ

私の推測では、Aさんは家族経営の工務店として、ハウスメーカーがつくるデザイン性の高い設計と見積もりの内容を盗みたかったのだと思います。

ハウスメーカーは図面だけでなく、プレゼンテーションも綺麗に作ります。

Aさんは、そのプレゼンテーションのノウハウも欲しかったのでしょう。

ハウスメーカー側としては腹立たしい限りです。

しかし、私が状況を分析すると、この可能性が最も高いと言わざるを得ません。

お客さんの関心や困りごとに絞った図面でプレゼンに差を付ける方法は、住宅営業のプレゼンのコツで解説しています。

図面を盗む客を見抜く確認の手順

アンケートの住所と勤務先は初回で確かめる

F君がAさんの住所を調べたのは3度目の面談の後で、すでに図面と見積もりを1回出していました。

住所の検索は手間がかかりません。

住宅営業が来場アンケートを受け取った時点で調べておけば、図面を描く前に疑問を持てます。

勤務先や自宅が工務店と分かったら、住宅営業は「ご勤務先で建てないのはなぜですか」と率直に聞きます。

Aさんのように「はい……」としか返ってこない場合は、営業が一人で判断しないことです。

上司と方針を決めてから次の打ち合わせに進むと、図面と見積もりを無駄に作らずに済みます。

土地があると書いた客には図面の前に敷地調査を申し出る

Aさんはアンケートに、土地を持っていると書いていました。

土地があるというお客さんには、住宅営業が図面を描く前に敷地調査を申し出るとよいでしょう。

そうすれば、土地の場所と状況、本当に建てる計画があるかを、営業が自分の目で確かめられます。

敷地調査の申し出方は住宅営業の敷地調査のアポ取りで解説しています。

まとめ

家族経営工務店の役員Aさんは、一般客を装ってハウスメーカー3社と折衝していました。

少なくともB社とD社には別々の要望を出して、図面と見積もりを出させていました。

D社のF君と私が疑いを持ったのは、アンケートの自宅住所をグーグルで調べたときです。

その住所が有限会社〇〇工務店で、Aさんの苗字が工務店と同じだと分かりました。

住宅営業が初回で住所と勤務先を確かめ、工務店関係者なら自社で建てない理由を聞くことです。土地があるなら敷地調査を申し出れば、図面を描く前に疑問を持てます。

ぜひ本記事の工務店役員の事例を参考に、図面と見積もりを出す前の確認手順を自社で決めてください。

あなたへのおすすめ