住宅営業のトークスクリプト|想定問答を二千近く作った体験談

軽量鉄骨の厚さは3.2ミリだと説明した直後、お客さんから「たった3.2ミリしかないの?」と返され、私は言葉に詰まりました。
住宅営業のトークスクリプトは、お客さんの質問に一往復で答える台本で終わらせず、二往復目・三往復目の切り返しまで書き溜めた想定問答集として作ると、商談で答えに詰まらなくなります。積水ハウス時代の私は、この体験をきっかけに二千近いパターンをまとめました。
本記事では、想定問答集を作ったきっかけの体験談と、工務店でトークスクリプトを作る手順を解説します。
住宅営業のトークスクリプトは「想定問答集」として作る
私が積水ハウスでライバルより多くの新築受注を取れた理由の一つは、お客さんの質問への答え方を「想定問答集」として作り込んだことにあります。
想定問答集と聞くと立派なものを想像されるかもしれませんが、私が作ったのは、ある程度の応酬話法(おうしゅうわほう)を考えてメモしたものです。たとえば営業が「積水ハウスは鉄骨構造です」と話したとき、お客さんから「鉄骨の家はあまりピンとこない」と言われたらどう答えるか、という問答を書いておきます。
お客さんから出そうな質問や反論を予想して回答を用意しておく準備については、商談前に作る想定問答集で解説しています。
この程度の質問ならまだ初歩的ですが、「火災のときは木造住宅よりかえって危険だと耳にしたのですが」と切り返されると、営業は少し戸惑います。私は臆病だったせいもあり、お客さんに何かを聞かれて答えられなかったらどうしようという恐怖感を常に持っていました。
ベテラン営業になれば、お客さんに何を言われてもほぼ答えられますし、きわどい質問をうまくかわす方法も身に付けているはずです。それでも、極端なクセ玉を投げられると、ベテランでも思わず「そうですね……う~ん」となることがあります。
住宅展示場でトークスクリプトの必要を痛感した「3.2ミリの鉄骨」体験談
「たった3.2ミリしかないの?」と切り返された
私が住宅展示場で接客していたとき、鉄骨の厚みを説明した場面で、お客さんから予想外の言葉が返ってきました。
私「積水ハウスは3.2ミリの厚さがある軽量鉄骨で建物をしっかり支えています」
客「たった3.2ミリしかないの?」
私「えっと……」
私はこれには面食らいました。
それまで何度となく同じ説明をしてきましたが、3.2ミリの厚みをマイナスのイメージで受け取られたのは初めてだったからです。
心の中でそう思ったお客さんはいたかもしれませんが、ほぼ反射的にこう切り返されたのは、後にも先にもこのときだけでした。
「実家の柱は四寸ある」と比べられた
私が答えに詰まっていると、畳みかけるように奥さんから追撃を受けました。
「うちの実家の柱は四寸はあるわよ」
お客さんは30代前半の若いご夫婦で、この世代で四寸、五寸という言い方を使う方はまずいないことも、私の混乱に拍車をかけました。
細かいことは覚えていませんが、3.2ミリしかない薄い鉄骨で作られた家には安心して住めない、と言われたことは確かです。
私もなんだかんだと言い返しましたが、話している内容が支離滅裂気味になったことだけは今でもはっきりと覚えています(笑)。
お客さんからはさらに、畳みかけるようにこう聞かれました。
「3.2ミリって何寸になるの?」
この換算を瞬時にするのは簡単ではありません。
お客さんの頭の中では、3.2ミリの薄い鉄骨と四寸ある実家の柱が、単純に並べて比べられていたのです。
もちろん、このご夫婦とは住宅展示場で30分ほど話してそれっきりです(笑)。
この商談のように奥さんから質問を受ける場面での接客は、ハウスメーカーの営業トーク事例で解説しています。
滋賀の積水ハウス工場で工場長に教わった切り返し
3.2ミリのやり取りからしばらくして、滋賀にある積水ハウスの工場で研修がありました。私はいい機会だと思い、お客さんからされた質問を工場長にそのままぶつけました。
工場長「一通り見学したと思うけど、何か質問はあるかな?」
私「展示場に来場したお客様から、積水ハウスの鉄骨の厚みは3.2ミリしかないのかと聞かれて困ったのですが、この場合どのように説明すればよいのでしょうか?」
工場長は、この質問に瞬時にこう答えました。
工場長「3.2ミリもあるじゃないか。3.2ミリしかないと言うのは君の先入観じゃないの?」
工場長はこの後、3.2ミリが決して薄くなく十分な厚さであることを理論的に説明してくれましたが、私にとっては最初の切り返しのほうが強烈なインパクトがありました。
工場で聞いた建材の話を商談に生かす例として、断熱材メーカーの工場視察の話は、断熱材を営業トークにする視点で解説しています。
二千近いパターンになったトークスクリプト(想定問答集)の作り方
空き時間に1つずつワープロへ打ち込んだ
工場長の件がきっかけとなり、支店に帰った私はすぐに想定問答集を作り始めました。一気に作り上げたわけではなく、暇な時間を見つけては一つ二つとワープロに打ち込んでいったのです。
私の想定問答集は、やがて千パターンを楽に突破するほどの量に膨れ上がりました。
私はそれをまとめて、事務所のデスクに座りながらパラパラと見返し、新しいトークパターンを思いつくとすぐに応酬話法を書き足しました。
分からないことやあやふやなことがあれば、その都度新しい応酬話法を積み重ね、既存の応酬話法にも少し変化をつけた派生バージョンを作りました。
最終的には千を超えるどころか、二千近いパターンが完成しました。この頃には私はお客さんが怖くなくなり、何を聞かれても言い返せる自信が身についていました。
一往復で終わらせず三往復目まで想定する
私の想定問答集は、一般的な想定問答集よりもう一段深く掘った内容でした。一般的な想定問答集は、お客さんの質問に営業が一度答えるところで終わります。
客「木造住宅は火災に弱いのではないですか?」
営業「それは誤解です。火災にあったとき木は芯まで燃えず、周りだけが炭化する性質があります。そのため、表面的には焼け焦げても芯まで燃えることはないので、家が崩れて命を落とす危険性は低いメリットがあります」
私の想定問答集もここまでは同じですが、その先でお客さんが返してきそうな質問も書いておきました。
客「それは分かるのですが、鉄骨住宅でも燃え尽きるまでには普通逃げることができますよね?」
お客さんの質問に営業が答える一往復だけでなく、二往復目、三往復目まで想定して問答を作ると、パターンはねずみ算式に増えていきます。
黙々と作業を続けるうちに、滅多に出ないレアな質問も入り込んできましたが、そのおかげで私は厄介な質問にもほぼ完璧に答えられるようになりました。
当時の資料が手元にないので記憶をたどるしかありませんが、派生型の質問の中には「支店長ってどんな方?」という想定質問まで登場しました。
この質問は、お客さんが積水ハウスという会社について尋ねたときに、ある一定の流れの先に出てくる想定質問で、私は答えも自分なりに考えてワープロに打ち込みました。
質問への答えに加えて、展示場で交わす雑談の話題への備え方は、展示場接客の雑談力を上げる方法で解説しています。
工務店で住宅営業のトークスクリプトを作るときの進め方
家族経営の工務店でも、営業マンと名のつく職種の社員が一人でもいるなら、こうした想定問答集を作ることを私は推奨します。作成には半年から一年は楽にかかりますが、一度作れば、その後の営業展開がものすごく楽になります。
想定問答集づくりは大変で地道な作業ですが、いったん作り始めると面白くなってやめられなくなります。
私もそのような流れで、分厚い辞書のような膨大なノウハウの集積体を作り上げました。
手書きでやれば大変ですが、WordやExcelでまとめれば簡単ですし、文章ではなく動画で撮影してYouTubeチャンネルに限定公開で上げる方法もあります。
専門用語を一般の人向けに言い換える対応集を作る
一般的な想定問答集に加えて、分かりやすく説明するのが難しい質問をされたときの対応集も作っておきます。
たとえばお客さんから「ZEHってなんですか?」と聞かれる場面です。
ZEHは業界の人間なら誰でも知っている言葉ですが、ストレートにこう聞かれて、うまく説明できる営業はそう多くありません。
専門的な内容をずらずら並べてもお客さんには分からないので、営業はなるべく簡潔に、一般の方にも分かる言い方を想定問答集として準備しておきます。
まとめ
住宅営業のトークスクリプトは、お客さんの質問に一往復で答える台本で終わらせず、二往復目・三往復目の切り返しまで書き溜めた想定問答集にすると、商談で答えに詰まらなくなります。
私は「たった3.2ミリしかないの?」の一言と工場長の切り返しをきっかけに、二千近いパターンを作りました。
原稿を書きながら、私は当時のことを思い出しました。
仕事でも勉強でも、物事を体系的にまとめて書き残すことは極めて重要です。
まだまとめる作業をしていない住宅会社には、重い腰を上げて手をつけていただきたいと思います。
ぜひ本記事の想定問答集の作り方を参考に、自社のトークスクリプトづくりを始めてください。



