家にこだわりがない客の接客|住宅営業が契約できた質問の実例

住宅展示場で「家づくりで何を重要視されますか」と聞くと、ご主人は「特にありません」と答え、奥さんは「価格が安ければ安いほどいいです」と続けます。住宅営業が自社のこだわりや展示場の仕様をいくら説明しても、お客さんは無反応のままです。
家にこだわりがない客には、今の暮らしで一番の不満を聞く質問が折衝の糸口になることがあります。別の住宅営業は、こだわりがないと話すお客さんから「冬の朝は起きると猛烈に寒い」という答えを引き出し、断熱に絞って話を進めて、最終的にそのお客さんと契約できました。
本記事では、家にこだわりがない客の実例と、追いかけるかどうかの判断、住宅営業としての接客方法を解説します。
住宅展示場で出会った「家にこだわりがない客」の実例
私が接客の様子を聞いていた住宅会社は、中高級のお客さんを相手にしています。その住宅会社の住宅展示場にやってきたご夫婦と、担当の住宅営業との会話です。
営業「資金計画などはされたことありますか」
主人「ネットでシミュレーションをしたことはあります」
営業「家づくりで何を重要視されますか」
主人「特にありません」
奥様「私も同じで価格が安ければ安いほどいいです」
終始この調子で、住宅営業が繰り出すあの手この手は、すべて封殺されてしまいました。中高級の住宅を売る住宅会社では、お客さんが価格だけを求めて来られると、住宅営業はお客さんと話が続きません。
ハイグレード仕様の展示場にも無反応だった
その住宅会社の展示場はかなりのハイグレード仕様で、玄関タイルはもちろん、居室のクロスも2ランクから3ランクほど、すべてアップグレードしてあります。展示場内の調度品や家具も基本的に有名メーカーのもので、家具に至ってはイタリアの直輸入品をふんだんに配置するほどの凝りようです。
住宅営業は自社のこだわりをいろいろとアピールしましたが、お客さんは見事に無反応で、まさに暖簾(のれん)に腕押しでした。
途中で住宅営業が「何かこだわりは?」と切り出したところ、ご夫婦から返ってきたのが先ほどの拍子抜けする答えです。
予算ではなく家を「ただの箱」と見ていた
私は会話を聞いていましたが、予算が少なくて資金計画がカツカツだという雰囲気は、ご夫婦からどこにも伝わってきませんでした。資金が極めて少なかった可能性もありますが、私の見立てでは、ご夫婦は家に対する高い要望や欲がなく、家をただの箱として捉えている感じでした。
住宅会社はこのご夫婦とそれっきりになったので、年収層や職業は分からずじまいです。それでも、担当の住宅営業が困ってしまったのは事実です。
反応が薄いお客さんへのその後の追客の考え方は、追客を嫌がられると決めつけない考え方で解説しています。
家にこだわりがない客は住宅営業の現場に一定数いる
お客さんは何千万円もの借り入れをして家を建てるのですから、住宅営業は、お客さんが家にこだわりを持ってやってくると考えがちです。
しかし現実には、家にさほどこだわりのないお客さんも一定数います。
家の性能やデザインよりも、マイホームを持つこと自体が大きな目標になっている人たちです。
展示場のご夫婦の例は、レアケースではありません。
私は実際の接客シーンを数多く見ていますし、住宅営業マンとの個人面談ヒアリングも毎月10件ほど行っていますが、その面談の中でも、こうしたお客さんの報告がたまにあります。
全体から見れば比率は少ないものの、一定数存在する客層です。
私は、こうした考え方を否定する気は微塵もなく、それどころか大いに賛同したい気持ちすらあります。
家は一定の基準をクリアしてさえいれば問題ないともいえますし、家にお金をかけるより生活そのものに重点を置く考え方があるのも当然です。
私はギリギリのローンを組んで家に全精力を傾けることに大きな疑問を感じていて、家のコストは極力抑えたうえで、その箱の中でゆったり過ごせば何ら問題ないと思っています。
家に対する考え方や思想は人それぞれなので、住宅営業はウイングを広げて、どんなお客さんにも幅広く対応していかなくてはなりません。
幅広い客層のうち、50代以上のお客さんへの定年後の暮らしの聞き方は、50代以上のお客さんの接客のコツで解説しています。
高級仕様の住宅会社がこだわりのない客を追いかけない判断
家にこだわりがない客への住宅営業の対応として、営業をしない、つまり追いかけないという考え方もありだと私は思います。
あなたの住宅会社が高級レベルの仕様だとします。
この前提でこだわりのないお客さんを取りに行くなら、住宅会社は仕様をどんどん削ぎ落とす必要に迫られます。
標準より2ランク上のクロスを使っているなら、そこから3ランク落として標準を下回るクロスにすることになりますし、30万円程度の便器を付けているなら、半額の15万円程度に落とさなくてはなりません。
こうした努力の結果、住宅会社が受注を取れたとしても、利益率は大きく下がりますし、住宅会社が目指す方針とはかけ離れた家になります。仕事がなければ取りに行かざるを得ませんが、受注に余裕があるなら、このようなお客さんは縁がなかったと思って追いかけないほうがいいと私は考えます。
契約につながりにくいお客さんの見極め方は、間取りが決まらない客への対応と見極め方で解説しています。
今の暮らしの不満を聞いてこだわりを掘り起こす
「雨露さえしのげれば十分」と言うお客さんへの質問
雨露さえしのげればいい、はさすがに言い過ぎかもしれません。
それでも、地震で潰れず、家の中が結露でベタベタにならなければ十分で、C値やQ値が驚異的な数字である必要はない、というお客さんはいます。
そうしたお客さんでも、住宅営業の問いかけ方しだいで折衝の糸口を見つけられることがあります。
営 業「住宅に対しては全くこだわりがないのですね」
お客様「そうなんですよ。どの住宅会社に行っても驚かれるのですが、極端な話、雨露さえしのげれば十分だと思っています」
営 業「ではこんな質問をさせてください。今はアパートとのことですが、今の暮らしで何が一番不満ですか。例えば収納が足りないでもいいですし、キッチンが狭いでもいいですし、もしくは朝起きた時に猛烈に寒いとか、何か該当するものはありませんか」
お客様「確かに冬の朝は起きると猛烈に寒いですね」
これは実際にあった会話です。お客さんにこだわりがまったくないことに困り果てた住宅営業がこう問いかけたところ、お客さんから大きな不満点を聞き出せました。
お客さんの今の暮らしを質問で聞き出して建物の価値を伝える進め方は、注文住宅の営業力と不動産営業との違いで解説しています。
断熱に的を絞った説明で契約に至った
この住宅営業の会社はたまたま断熱に自信があり、断熱を大きくアピールしていたので、住宅営業は断熱に的を絞って話を進めました。
営 業「今時の家であれば、どのメーカーで建てても一定の温かさは担保できるのですが、細かくご説明しますとやはりメーカーによってその快適さはずいぶん違うのです。弊社の場合ですが・・・」
最終的に、住宅営業はこのお客さんと契約できました。
この会話が決め手になったかどうかは断言できませんが、私が住宅営業に確認したところ、打ち合わせの最中に湿気対策や断熱性の話を熱心にすると、お客さんは大変興味深く聞いていたそうです。
展示場や分譲地での初回接客の進め方は、住宅営業の初回接客のコツで解説しています。
住宅営業の価値観をお客さんに押し付けない
家にこだわりがない客は来場する頻度が少ないので、住宅営業がさほど気にする必要はありません。それよりも私が普段から気になっているのは、住宅会社や担当営業が持つ価値観の押し付けです。
「家とはこうあるべきだ」「家の良し悪しが家族の幸不幸を決める」など、どんな価値観でもかまいませんが、住宅営業本人には素晴らしい考えでも、お客さんにとってはどうでもいいことかもしれません。
私がお客さんの取材をしていると、たまにこんな言葉を聞きます。
「〇〇ホームの営業さんは大上段から構えて何か押し付けがましいんですよ」
お客さんはうんざりした様子でこう話しますが、この反応はあなたが考える以上に多いと考えてください。
住宅営業は良かれと思ってアドバイスしているつもりでも、お客さんにとっては大きなお世話かもしれないのです。
契約したお客さんへの取材から分かる接客の傾向は、ハウスメーカーの営業トーク事例で解説しています。
まとめ
家にこだわりがない客は数こそ少ないものの、住宅展示場には一定数やってきます。高級仕様の住宅会社なら追いかけない判断もありですし、住宅営業が追いかけるなら「今の暮らしで何が不満ですか」と聞いて、自社の強みと結びつく不満を探す手があります。
家に関する考え方は人によって千差万別です。
あなたの常識では家を建てる以上こだわり抜くのが当たり前でも、別の価値観を持つお客さんもいます。
住宅営業は心の準備がないと、このようなお客さんが来場したときにまごまごしてしまいます。
ぜひ本記事の展示場と契約の実例を参考に、家にこだわりがない客が来たときの聞き方を決めてから接客に臨んでください。



