今日のコラムは工務店の抱える構造的な問題というよりは、気持ちの問題といいますか、大手ハウスメーカーなどとの決定的な違いを皆さんにお話したいと思います。
私は積水ハウスと都内の超零細工務店に営業職として勤務した経験があるので、この二つの違いを肌で体感しています。
この時感じた違いは、基本的には今でもまったく同じ構図になっているので、そのあたり掘り下げていきましょう。
“構造的な問題”と書きましたが“気持ちの問題”とも言えますし“先入観の問題”と表現してもいいかもしれません。
さまざまな問題がある中で、今回のコラムで的を絞りたいのは追客です。
工務店と大手ハウスメーカーでは追客の仕方や考え方に大きな違いがあることを是非ご理解いただきたいと思います。
コンサル現場で見た小規模工務店の抱える問題点⑥・・・追客に消極的なY社の事例
「お客さん自宅にお礼の訪問してこいや」
その昔ハウスメーカーではこれが当たり前
今でもやられている営業手法ではありますが、30年前のハウスメーカー営業では、これが追客における基本中の基本でした。
当時を思い出すと、今でも少し複雑な気分になりますが、上司である店長とはこんな会話をして いました。
私 「今日接客したお客さんは一組です。3年以上先とアンケートにも書いてありますし、接客した感じでも当分予定は無さそうでした」
店長「そうか、わかった。とりあえず明日訪問してこい」
毎日がこんな感じだったのです。
脈のあるお客さんならまだわかりますが、脈がないのは接客した本人が一番分っています。
しかし、上から出る指示は「とにかく顔を出して来い」となるだけでなく、接客した翌日に行けという命令が出るのです。
もちろん業務命令ですから、私は忠実に実行しました。
内心はアホくさいなと思っていたのですが、こればかりは仕方がありません。
翌日訪問するとどんなことが起きるのか?
① 「なんで来たの?」という顔をされる
当然こうなるでしょう。
前日に展示場で話をして「今の所は建築予定が無いんですよ」と別れているのに、翌日わざわざ自宅まで押しかけて「昨日はご来場ありがとうございました。ところで・・・」と話を続けるわけですから唖然とされるのも頷けます。
② 迷惑な顔をされる
これも想定できるでしょう。
説明は特に不要だと思います。
③ 意外なほど受け入れてくれる
これがポイントです。
確率は低いのですが、展示場における初回面談の印象が悪くても、翌日の訪問では雰囲気が変わっているケースがたまにあります。
初回の印象がそこそこである場合も、翌日訪問すると話が一気に進んで アポイントが取れたりすることもあるのです。
こうした可能性があるので、その当時の上司はどんなお客さんであっても、翌日必ず訪問しろという指示を出したわけです。
令和の時代はどうなのか
平成の初期はどの大手ハウスメーカーでも同じような指導が行われていました。
では、令和の今はどうなのでしょうか。
昔と比べればこのような指導が激減したのは事実です。
しかし、この手法が厳然と有効であることも、これまた事実なのです。
昔ながらの指導が減ったのは、アプローチを嫌うお客さんが増えたことと、営業を指導する上司がこの手法を嫌う事が大きく影響しているのでしょう。
そして、この私が住宅会社の営業部長になったとすれば、私が若い頃 行っていたようなアプローチは基本的にはさせません。
しかし、ここに大きな落とし穴があることを皆さんには気づいてほしいのです。
つい最近九州であったこんな事例
九州のある県で面白いお客さんにお会いしました。
某住宅会社からの依頼で、建築請負契約を締結したお客さんの取材を行ったのですが、奥様から意外な話が漏れ出したのです。
私 「今回はご縁があってFホームさんに 決められたわけですが、 はじめて展示場に行かれてからどんな展開がありましたか?」
奥様「他社もいろいろ検討して結果的にこうなったのですが、F ホームさんの営業であるRさんが あまりにも消極的だったんですよね(笑)」
私 「消極的と言うと?」
奥様「展示場に初めて行った時に30分程度話した記憶があるのですが、それから訪問はおろか電話によるアプローチすらなかったんですよ」
私 「積極的に行くとご迷惑だとRさんも思ったのでしょう」
奥様「私はそういうことを考えてなくて、アンケートに名前を書いたからには、住宅会社の営業マンは必ず自宅にやってくると待ち構えていたんですけどね(笑)」
この話を皆さんは意外と思いますか?
私は全く違います。
アプローチをされることを迷惑だと思うお客さんが相当数いるのは間違いないのですが、この奥さんのように営業社員のアプローチをある程度予期して待ち構えているケースも少なからずあるのです。
小規模工務店の皆さんへ
追客が悪いことだと頭ごなしに決めていないか
私が今回のコラムでお伝えしたいことはこれです。
お客さんの中には、この奥さんのように表向きは飄々としながらも、 心の中では住宅会社からのアプローチを予測している方もそれなりにいるのです。
しかし、そうしたお客さんを見分けるのは極めて困難なので、よほどの拒絶オーラを出している方は別ですが、ひとまずすべての方へアプローチをするのが吉と言えます。
もちろん、微妙な問題であることを私は百も承知ですが、お客さんへのアプローチは積極的に行った方が結果として良いと考えています。
一人親方の大工さんから全国区の住宅会社まで私は顔を出すのですが、小規模工務店の中には、追客自体を悪とまで言わなくても、極力控える様な方が多いことが気になっています。
いわゆる待ちの営業と言えばいいのでしょうか。
皆さんの個人的な友人や知人を思い出してください。
さまざまな性格の方がいるはずですが、その中には、あなたから背中を押されるのを待って動くタイプの方も少なからずいるはずです。
つまり、工務店から背中を押されるのを待っているお客さんも必ず中にいると考えてください。
具体的なアプローチの仕方やお客さんに嫌われない追客方法は、別のコラムで追々ご紹介して行きます。
追客に消極的なY社
遅くなりましたがここでY社に登場してもらいましょう。
中国地方に本社を置くY社は、従業員十人程度の工務店です。
社長を20年前から存じ上げている関係から、社内の雰囲気や営業の仕方も熟知しているのですが、とにかく追客が弱いことが昔から気になっていました。
「ハウスメーカーのような迷惑営業したくない」
これが社長の口癖です。
以前は私も少しムキになっていい返す時もありましたが、社長の気持ちを理解できるのと同時に【アプローチ=迷惑営業】との固定概念が頭にあることを理解するようになってからは、私もカリカリすることはなくなりました。
こちらの会社はコンサルで入ったことは全く無いのですが、何か機会があると、メールや電話でやり取りをして話を しています。
そんな関係なのですが、はじめて会った20年前と今を比べても、追客に関する社長の考え方はほぼ変わっていません。
展示場を所有しているのですが、接客した後、お客さんにアプローチする手法で電話は絶対に不可、メールアドレスを聞いたお客さんに対してソフトなお礼メールを返すだけです。
ただ、結果的にはこれでそれなりの受注を取ってるわけですから、 社長の考えが正しいのかもしれません。
しかし、常日頃社長は「もうちょっと受注が欲しいんだよね」と話しています。
もう少しだけ追客を積極的に行えば、この悩みは簡単に解決すると私は信じているのですが、今のところはどこまで行っても平行線です。
まとめ
Y社の話は、結局ほんの少しだけになってしまいましたが、ハウスメーカーが行っている積極営業は迷惑である、との思考がY社の社長には完全に心の中にこびりついていると私は考えています。
誤解なきように言っておきたいのですが、確かに彼らのやり方には迷惑な手法も多々あるのは事実でしょう。
これを否定する気は私に全く無いのですが、とにかく勘違いしないでいただきたいのは、積極的に営業をかけること自体が悪いということではないということ
お客さんに迷惑と感じられることもあれば、いいタイミングで背中を押してくれたと捉えられることもある、こういうことですね。