小規模工務店が9,000万円の契約を逃した3つの理由|施主取材の本音

地元の工務店が図面と見積もりまで出していたのに、お客さんは最後に大手ハウスメーカーと契約しました。
つい最近、私は住宅会社のB社から依頼を受け、B社と建築請負金額9,000万円の契約を結んだYさんを取材しました。
その取材で、地元の小規模工務店がまさにこの形で失注していたことを知りました。
Yさんが地元のF工務店を断った理由は3つあります。
プレゼンテーションの質が低かったこと、アフターサービスの説明がなかったこと、社長がYさんの希望するデザインを否定したことです。
Yさんは当初、大手に頼む気はまったくありませんでした。
本記事では、施主取材で分かった小規模工務店の失注理由と、高額案件を取り逃さないための見直し点を解説します。
9,000万円の注文住宅を地元の工務店に頼むつもりだったYさん
9,000万円という建築請負金額は、通常の住宅の3〜4棟分に当たります。そのため、B社も担当営業も、相当気合が入った案件でした。
取材はZoomで小一時間ほど行いました。私があれこれ聞く前に、Yさんは契約に至った経緯をまくし立てるように話し始めました。
「今回は結局B社にお願いすることになったんですけども、実は直前まで地元の小さな工務店でやろうと思っていたんですよ……」
B社が私に取材を依頼したのは、Yさんがなぜ自社に依頼してくれたのかを探るためでした。ところが、Yさんの話をよく聞いてみると、B社が良かったのはもちろんですが、競合した地元工務店の側にも多くの問題があったのです。
要望の聞き方やデザイン、アフターサービスで工務店が施主の信頼を失う例は、工務店が選ばれない3つの理由で解説しています。
高額住宅の施主が大手ハウスメーカーより工務店を選ぶ理由
意外かもしれませんが、高額な注文住宅を建てるお客さんの中には、大手ハウスメーカーを敬遠する人が結構います。
世田谷区の施主が嫌った「住宅のデパート」
私は、東京都世田谷区に住み、同じ区内に土地を買って豪邸を建てた方にお会いしたことがあります。その方は、家を建てる前にこう話していました。
「積水ハウスとか三井ホームとかは嫌なんだよね。だってああいう会社は住宅のデパートじゃない。高い商品もあるけどすごく安いのもあるでしょう。そういうところで家を建てるのが面白くないわけだよ。高級住宅なら高級住宅だけを年間数棟だけ扱ってるような設計事務所とか工務店がいいと考えているんだ」
実際に、この方は地元の工務店に1億円を楽に超える住宅を発注し、大満足の家づくりをしました。
私はこの工務店を知っています。
八王子にある演歌歌手・北島三郎さんの邸宅で、大工工事一式を請け負った工務店です。
私は社長とも面識がありますが、この工務店は派手なことをせず、地道に良い住宅をつくることで定評があります。
「積水ハウスも面白くないね」と考えたYさん
Yさんも、大手ハウスメーカーは面白くないという同じ発想を持っていました。積水ハウス出身の私はこの話に聞き耳を立てましたが、Yさんの考えは極めてシンプルで明快でした。
積水ハウスの最高級シリーズは「IS STAGE(イズステージ)」で、見る人が見れば一目でこのシリーズだと分かります。
私はいまでも一瞬で判別できます。
遠目に屋根の形や外壁がちらりと見えただけで「あれはイズステージじゃないかな?」と気になり、近寄るとまず間違いなく当たっています。
Yさんが家を選ぶ基準は、唯一無二であることでした。この基準が大きな判断材料になっていたため、Yさんは積水ハウスや三井ホームなどの大手メーカーを、最初は候補に入れていなかったそうです。
地元のF工務店が失注した3つの理由
そうした考えのYさんが最初に足を運んだのは、以前からネットでチェックしていた地元のF工務店でした。
Yさんは他社を見ることもなく、F工務店にプランの要望を伝えました。
ところが、図面と見積もりが出たところで、Yさんはだんだん疑問を持ち始めました。
プレゼンテーションが「モノクロの世界」だった
Yさんは10年前に服飾関連の会社から独立し、いまでは従業員を多く抱えるデザイン事務所を経営しています。
デザインを生業にしているので、Yさんが提案資料を見る目は当然シビアになるでしょう。
そのYさんには、F工務店が出したプレゼンテーションが、時代錯誤でレベルの低いものに見えたようです。
Yさんが不満を持ったのは、間取りではありませんでした。
見た目のインパクトや色使いを含めて、Yさんいわく「モノクロの世界なんですよ」とのことでした。
派手な色使いが良いとは言いませんが、プレゼンテーションには華やかさが必要です。
この分野はハウスメーカーが圧倒的に得意としていますが、F工務店にはその認識が欠けていたのでしょう。
私はこのプレゼンテーションを見ていないので何とも言えません。
ただ、Yさんの落胆ぶりはかなりのものだったようです。
アフターサービスの話を工務店から切り出さなかった
アフターサービスの説明が弱いことも、工務店に共通する弱点の一つでしょう。Yさんの几帳面な性格も影響したと思いますが、Yさんは、自分から聞くまでF工務店がアフターサービスの話を切り出してこなかったことが、癪に障ったそうです。
一方、最終的に契約した大手ハウスメーカーのB社では、営業がタブレットを使って、Yさんが求める前からアフターサービスの内容を徹底して話してくれたそうです。
大手ハウスメーカーと同じ水準のアフターサービスを、小規模工務店が用意するのが難しいことは分かります。それでも、F工務店はアフターサービスを説明する大切さへの認識がおそらく弱かったのだと、私は推測しています。
人手が足りない小規模工務店でも定期点検の日程を約束して施主との接点を残す方法は、小規模工務店のアフターサービスで解説しています。
社長がYさんの希望するデザインを否定した
デザイン会社を経営するYさんは、家のインテリアにもかなりこだわりがあったと考えられます。
Yさんは事前にF工務店のホームページを見て、おしゃれな工務店だと認識したうえで相談を持ちかけていました。
ところが商談が進むと、YさんはF工務店のデザイン性に大きな不安を抱いたそうです。
「ホームページを見ると確かにおしゃれな感じの建物がたくさん載っていたのであまり不安はなかったのですが、私が自分の希望するデザインの話をすると、結構社長が否定してくるんですよね」
工務店の社長がお客さんの希望するデザインを否定しにかかるという話は、私もあまり聞いたことがありません。F工務店の社長はデザインに一家言を持っていたようで、強い態度ではないものの、Yさんの希望を否定する言葉を並べたそうです。
この否定が決定打になったようです。Yさんは、自分が理想とするデザインを実現できない会社では話にならないと考え、F工務店との商談を打ち切りました。
大手ハウスメーカーの営業がタブレットで見せた個性的な施工事例
Yさんは、大手ハウスメーカーをデパートのようでつまらないと言い切っていました。そのYさんが最終的に大手のB社に決めた理由は、B社の営業の対応にありました。
Yさんは、唯一無二の家を建てたいことをB社の営業に真っ先に伝えたそうです。すると、B社の営業は自分のタブレットを出し、個性的な建物だけを並べた自社物件の写真を、次から次へとYさんに見せたのです。
B社の営業は、Yさんのようなお客さんに対応するために、この写真集を用意していたのだと私は思います。
Yさんは、大手ハウスメーカー、つまりプレハブメーカーの家は画一的で外観が同じだと考えていました。
しかし、このタブレットでのプレゼンテーションを見て、Yさんの考え方は180°変わったそうです。
「僕は勘違いしていたんだよね」
もしB社の営業が、イズステージのように外観で商品名がすぐ分かる高級住宅を見せていたら、Yさんはきっと断っていたでしょう。人と同じものを嫌うYさんには、個性的な建物だけを集めた写真がうまく合ったわけです。
施主がハウスメーカーを断った決め手と、工務店が競合時にそれを生かす方法は、ハウスメーカーの失注理由で解説しています。
それでも、YさんにはF工務店への未練がかなりあったようです。
「いい造りをしてるし、匠の技術を持ってるんだよねえ……」
それでも上で書いた3つの点が引っかかり、Yさんは予期していなかった大手ハウスメーカーに依頼することになりました。
小規模工務店が高額案件を取り逃さないために見直すこと
提案資料とアフターサービスの説明を商談の前に用意する
小規模工務店が高額案件を提案するときは、図面に加えて、完成後の色や雰囲気が分かるパースや施工写真を添えてください。
アフターサービスも同じように準備しておきます。保証や点検の内容を資料にまとめておけば、お客さんに聞かれる前に、工務店の側から説明できます。
社長の好みより施主の希望に近い施工事例を見せる
お客さんの希望が社長の考えと違うときは、まず否定せずに最後まで聞いてください。
そのうえで、希望に近い自社の施工事例を見せて、実現できる範囲をお客さんと一緒に確かめる進め方に切り替えます。
B社の営業の写真集のように、お客さんのタイプごとに見せる施工事例を選んでおけば、ホームページで持たれた期待を商談で裏切らずに済みます。
施工事例の写真を普段から発信する方法は、ハウスメーカー・工務店のSNS集客で解説しています。
まとめ
9,000万円の注文住宅を建てたYさんは、当初は地元のF工務店に頼むつもりでした。
F工務店は、造りと技術でYさんに惚れ込まれていました。
それでも、モノクロのプレゼンテーション、工務店から切り出さなかったアフターサービスの説明、社長によるデザインの否定という3つの理由で失注しました。
提案資料とアフターサービスの説明を先に用意し、施主の希望に近い施工事例を見せることが、Yさんの取材で分かった3つの失注理由への対策になります。
ぜひ本記事のYさんの取材話を参考に、自社の提案資料と商談の進め方を見直してください。



