住宅取得者向けのウェブ記事もたくさん書いているので、毎月2、3件の住宅相談が必ずあります。
とりあえずは無料で簡単にお答えし、腰を据えて相談に乗る時は安価ながら経費をいただいています。
仕事とは全く言えない業務ですが、住宅相談はコンサルタントとして活用できる様々なネタを入手できるので、経費度外視で私は23年間受け続けています。
今日のコラムは、今年の2月に会ったあるお客さんの住宅相談を取り上げましょう。
工務店とハウスメーカーで悩んだ方ですが最終的には、工務店を蹴って地場ビルダーにしました。
基本的には地元の工務店でやりたかったのですが、やり取りの中で不信感を持ってしまった、というケースでした。
「工務店の〇〇が心配でやめました」直近の住宅相談
長野県にお住まいのAさん
長野県の二大都市は県庁所在地の長野市と松本市です。
今回ご相談を受けたのはこの二つの都市ではなく、周りに田園地帯が広がる風景に一軒家を構えるAさんでした。
若干内容をぼかしますが、ご相談内容を箇条書きするとこうなります。
- 建て替えは地場工務店でやる予定だった
- 最初に声をかけたのは父親の旧友である大工
- 基本は任せる予定だったが 地域のビルダー の展示場に行く
- 両方並行して話を聞くが大工の対応に不信感と期待はずれ感
- 結果的にはビルダーにしたが今でも大工に未練はある
リモートを使ってご相談に応じましたが、この大工の対応があまりにも時代錯誤であり、お話にならない点がいろいろ見えて来たのです。
「任せてくれればいいから」で不信感
時代錯誤とはまさにこのことでしょう。
お父さんの旧友ではあるものの、Aさん自身はこの大工と面識は全くありませんでした。
約束の日に大工の事務所に夫婦で出かけた Aさんですが、第一声でが「任せてくれればいいから」とカウンターパンチ。
Aさんは基本的にハウスメーカー等ではやる気はなく、地元の大工か小規模な工務店と決めていたらしいのですが、そんなAさんは家づくりの際にしっかりとヒアリングをしてもらい、図面、見積もり、デザインについても要望を聞いてくれるのが常識だと思っていたのです。
ところがこの大工は、Aさん夫婦のはるか斜め上をいっていました。
「しっかりご要望をお伺いします」でも駄目
この大工の話を聞いて「うちはそんな馬鹿な事するわけないじゃん」 との声が聞こえてきそうです。
しかし、契約を勝ち取るにはこの対応だけでも不十分だと考えてください。
お客さんに対して「ご要望はしっかりヒアリングしますよ」というのは当たり前の話です。
お客さんから見ても同じことで、こんな挨拶は社交辞令であってリアリティはありません。
ある中堅ビルダーに2、3年間コンサルで通ったことがありますが、 ここではこんな営業ツールを作成し定着させました。
お客さんの要望を具体的にどう聞くかを明示
次の二つの会話事例を ご覧ください。
【パターン1・・・通常の会話】
工務店「ご要望はしっかりどんなことでもおっしゃってくださいね。 可能な限り実現させます」
客 「打ち合わせは何回でもできるのですか」
工務店「大丈夫です。気の済むまでやっていただいて結構ですよ」
【パターン2・・・ 信頼を得られる会話】
工務店「ご要望はしっかりとどんなことでもおっしゃってくださいね。可能な限り実現させます」
客 「打ち合わせは何回もできるのですか」
工務店「大丈夫です。気の済むまでやっていただいて結構ですよ。これをご覧いただけますか・・・一年前にうちでやっていただいた方なんですが、主寝室に関するご要望をこのように7ついただいたんですよ。これを全部間取りに反映させたんですが、その図面がこちらです」
要望を具現化した実績がモノを言う
正直前半の会話は何でもいいのですが、重要なのは後半部分です。
今までお客さんの要望を聞いて、それがどう具現化されたか図面を提示して新規のお客さんに見せるのです。
これが信頼を得ることだと言えるでしょう。
このような実績を何例も見せられれば、きっと自分の要望もこのような形で提示してくれるのだろうと期待するわけです。
長野のAさんが最初に話をした大工は、この対応からは遠く離れた対局にいたわけですが、読者のみなさんいかがでしょうか。
この大工のようなひどい対応はして無いはずですが、私が今ここで お示ししたようなことはおそらくやってないでしょう。
早急に資料を作成して次回の新規商談に使ってみてください。
デザインの重要性を全く理解してない大工
Aさんが大きく疑念をいだいたもう一つの要因は、デザイン性への期待でした。
田舎に行くと皆さんも気づいたことがあるかもしれませんが、街中に大工さんが建てたと思しきほぼ同じ外観をした家が立ち並んだのを見たことがないでしょうか。
私はこのような地区で営業したことがあるのでよくわかるのですが、田舎に行くと建物を見ただけで「あれは〇〇大工がやったやつだ」とすぐ分かるのです。
住んでいる地区は田舎ではありますが、Aさん自体は30代で「あんなダサいのはまっぴらごめんです」という感性を持っているのです。
私は一人親方の大工さんを何人も知っていますが、その中には新築物件のほとんどの外観がほぼ同じという人もいます。
懇意にしているある大工に直接聞いたことがあります。
私 「〇〇さんの家は外観ですぐわかりますよね」
大工「家にとって一番いい素材や適材適所の木材使用を考えるとああいう風になっちゃうんだよ」
私 「でも新築受注が減っている今の時代を乗り切るのであれば、デザインは色々考えた方がいいですよ」
大工「そう言われても今までずっとこれでやってきたからさ」
堂々巡りです(笑)
これも理屈は同じ
皆さんとこの大工の次元は明らかに違うでしょうが、デザインに関してもお客さんの信頼を契約前に得るには、事例を見せるのが一番です。
事例を見せるといっても作品集を提示するだけでは、他社と何も変わりがありません。
テクニックは先ほどと全く同じです。
「これがうちの作品集です。外観はおしゃれですしインテリアもこんな感じですよ」
この写真がお客さんの心を捕まえるようなおしゃれなものであれば、それはそれで悪くありません。
しかし、気持ちをさらに鷲掴みにするためには、お客さんの出した具体的な要望を羅列した上で、それを実現したというストーリーを提示することがポイントです。
アフターサービスに懐いた疑念
長野のAさんはこの大工にアフターサービスのことも徹底して聞きました。
Aさん「アフターサービスとかどうなっていますか」
大工「うちはほかの会社みたいに定期点検はしてないけども、何かあったら電話をちょうだい。すぐに飛んでいくから。これがうちみたいな小規模会社のいいところで、大手にはこんな小回りがきかないよ」
大工や小規模工務店の方がよく口にするトークです。
「大手と違って小回りが利く」
「システマチックな対応ではなく困った時にすぐ対応する」
一見すると耳障りの良い話に聞こえますが、お客さんはそう取りません。
1ヶ月点検3か月点検というように、決まったスケジュールをアフターサービスとして設定している会社に信頼感を持つのです。
この大工がこうしたシステムを持っていないことはAさんも会う前から想定していましたが、大工のあまりにも軽い二つ返事の答えに不信感を持ったのです。
まとめ
長野のAさんとはリモートで3回やり取りし、合計で4時間近く話をしました。
最終的には大工をやめ地元の比較的大きなビルダーに新築を任せたのですが、それでも本心としては地元の大工さんにお願いしたいという気持ちが強かったようです。
しかし、本文にも書いたように要望をしっかり聞いてくれるのか、アフターサービスは大丈夫か、希望するようなデザイン性を実現してくれるのか、などに大きな疑問を抱いた結果、対象から完全に外れる結果となりました。