「昭和の根性営業なんてものは過去の話だ」
一般論としてこのように言われますし、大枠では間違っていないと思います。
昨日はあのオープンハウスに対して文春砲が炸裂し、就活生をも巻き込んだパワハラ疑惑を大々的に報じられました。
あの会社は辞める社員も多いので必然的に社内の雰囲気も外に変わってきますし、そうした退職者と私は何人も話しをしているので、ある程度の実情を知っています。
まさに昭和の営業といっても良いと思いますが、さすがにやりすぎた感があります。
興味がある方は週刊文春を読んでほしいのですが、現実の営業現場に目をやると、こうした昭和のコテコテ営業もそれなりに通じる部分があるのです。
だからこそ、オープンハウスは実績を伸ばしたのでしょう。
昭和のコテコテ営業も捨てたもんじゃない
東北でつい最近あったこんな話
面白い話が最近ありました。
工務店の営業でなく住設会社営業の話ですが、まさに昭和のコテコテ営業で、新規受注を勝ち取ったのです。
主役は新卒のA君。
大学時代は体操部で鍛えたこともあり、二の腕は筋肉隆々でスーツがはちきれんばかりです。
彼は営業で入社したのですが、新卒ですから大した知識があるわけでもありません。
そんな若者が百戦錬磨の工務店に営業へ行ったところで、普通は全く相手にされないでしょう。
A君がとったコテコテ営業手法
彼は住設営業なので工務店のような個人営業はありません。
いわゆるB to Bという形態ですが、会社としては既存の取引先に加えて新しい工務店を開拓して行くことになります。
営業はそのために努力をして新規開拓に励むのですが、いくら訪問しても、その工務店にはそれまでの取引先も存在するので、価格が圧倒的に安ければ話は違いますが、なかなか新規の取引には繋がらないのです。
こんな構造の中で、新卒の営業が食い込むのは至難の技と考えるのが普通でしょう。
しかしA君は違いました。
「ノーアポイントで訪問したのですが、大雨だったんですよ。事務の女性社員が対応してくれたのですが、社長は2時間ぐらいしないと帰ってこないって言うのです」
普通の営業であれば訪問理由を伝えてほしい、と告げて退散するでしょう。
ところが、A君は違いました。
「では、ここで待たせてもらいます、と伝えて会社の前で傘を差し2時間立って待っていました。そこで社長が帰って来て一旦は会社の中に入ったのですが、しばらくすると私の姿を見つけて社長室に招き入れてくれたんですよ」
まさにコテコテ営業です。
社長にしてみれば、うるさい営業が来たなぐらいにしか思わなかったのでしょうが、会社の前で大雨の中、2時間も待っている姿を見れば、ひとまず「入れ」と言わざるを得ないでしょう。
この会社とのその後の取引は未定ですが、ひとまずここまで食い込んだA君は大したものです。
お勧めはしないが・・・
私は皆さんに勧めませんし、こんなことをやってはいけないと思いますが、現実の営業現場ではほぼ迷惑営業に近いような形態でも受注がとれるケースが相当あるのが現実です。
土下座で受注を取ったC君
これも若手営業の事例ですが、その地域ではかなり名の知れたある有力工務店での話です。
答えを先に書いてしまいましたが、絵に描いたような土下座をしてお客さんから受注を取ってくるタイプです。
以下C君が私に話したことです。
「おととい契約したお客さんですけども、うちが値段が高かったこともあり、なかなか首を縦に振ってくれなかったんですよね。最後は粘りに粘りましたよ。玄関で土下座して契約するまで帰らないと私は言ったんです。玄関といっても靴が置いてあるところですよ。コンクリートの上で土下座しました!そうしたら最後お客さんが根負けして契約してくれたんです!やりました!」
何が凄いかというと、この手法に何ら疑問を持たずに誇らしげに語る彼のメンタリティーです。
それと同時にあらめてこんなやり方でも契約してくれるお客さんが存在するのだ、と言うことに驚きました。
この手法は絶対にとらないでください
営業ですからある程度粘ることは仕方がないですし、気合や根性も必要だと思います。
で、このやり方はどう考えてもおかしいでしょう。
私個人なら絶対にやりませんし、コンサルティング先でも間違っても勧めない方法です。
それをお断りした上でお話をしますが、数をこなすとこのようなやり方でも新築受注が取れるのは事実です。
こうした事実が、強引な営業で急成長する会社を助長させる一因ともなるのでしょう。
つい最近も、ある有名な会社が週刊文春にすっぱ抜かれましたが、こちらの会社も激しい営業で名の通った住宅会社です。
しかし、実際には人の迷惑を顧みず突撃してねばると、数の法則が働いて受注が取れるのです。
訪販会社も基本的にはこのような計算をして、目標数字を設定しています。
ある外壁塗装の訪販会社の社長と面識がありますが、営業社員に毎月1万件の訪問をさせて、外壁受注の総金額が1,000万円だと仮定しましょう。
これを1,500万円に増やすためには、1万5千件の訪問をさせると、ほぼ目標の数字が達成されるのです。
100件や200件では数値の根拠が曖昧になりますが、統計学的に考えると、分母が増えればおのずと分子の数もそれに比例して増えるということが言えます。
あとは、現在の人数で訪問回数をこれだけ増やせるかどうかなどが問題になるだけのことです。
「1年生なんです! 頑張っています!」
これは今でも通用します。
私は毎年のように新卒と社員を指導しているので、生の情報が入ってきますが、新卒社員は新卒であること自体が有効な営業ツールとして働くことが往々にしてあります。
自分の息子や娘ぐらいと同年代の営業たちが一生懸命汗を流してやっていると「頑張ってるから華を持たせてやるか」となっても不思議ではありません。
その一方で、このような理由で契約をするのが信じられないという人も多数いるでしょう。
一生に一度あるかどうかの住宅取得で、数千万もの借金をするのに、情にほだされただけで決定してしまうことが納得できないようです。
しかし、工務店の皆さんに言いたいのですが、もしあなたの会社に新卒社員やせいぜい2年生程度の若い営業がいたら、とにかく一生懸命汗を流させ、お客さんに食いつかせてください。
こんなコテコテの昭和的営業が功を奏することが結構あるのです。
こんな先輩がいました
昭和ではなく平成の話ですが、私の先輩にあたる人が数字に追い詰められた挙句失踪するという一件がありました。
よく面倒を見てくれた方で大好きな先輩だったのですが、上からのしかかってくる数字は大きなプレッシャーになっていたのでしょう。
あるとき契約をもらう予定だったお客さんのお宅から、深夜の12時を回ってもその先輩が帰ってこないのです。
直属の上司も待っていたのですが「嫌な予感がするな・・・」の一言で、残っていた営業全員が車に乗ってその先輩の寮に向かいました。
外から窓を見ると薄い明かりが付いていたので、私の上司が「あいつ中に居るんじゃないか?おい、森、この合鍵で中に入って様子見てこい」
と言うではありませんか。
焦りましたよ(笑)
部屋の中に入ったら嫌なモノを見るのではないか、という恐怖感があったのですが恐る恐る入ってきました。
奥まで入って行ったのですが、先輩が寝ているだろうベッドが盛り上がっているのが目に入りました。
先輩は寝ていたのです。
「森か?悪いな、迷惑かけて・・・」
先輩は店長から大目玉を喰らうのではないかと思っていたのですが、なぜかこの時はお咎めもなく、翌日の朝礼でもこのことには触れずにそのまま時は流れました。
上司もさすがにこれ以上詰めたらまずいと思ったのでしょうね(笑)
まとめ
私はこの手のコテコテ営業はあまり好きではありません。
今自分が22歳に戻って新卒営業として住宅会社に入社したとしても、嫌悪感を抱いてやらないでしょうね。
しかし、勘違いしないで欲しいのは、この手法を否定しているわけではないことです。
私個人として嫌いだと言っているだけで、もし自分が工務店の経営者になり新卒社員を1人採用したとします。
本人の意思を無視してはだめですが、昭和的なコテコテ営業をやりたがっていて何の抵抗もないのであれば、お客さんに迷惑にならない範囲でやらせるでしょう。