住宅会社コンサルの仕事をしていると、定期的に能力の高い営業社員に出会います。
そんな優秀社員を一人ご紹介しましょう。
入社4年目のAさんですが、彼の特徴は土地なし客への対応が抜群にうまいということです。
現状の新築営業事情を考えると、土地を持ってないお客さんが7割方をしていますので、土地紹介のうまい営業社員はこの世界では必然的に成功する確率が高くなるのです。
Aさんの特徴は土地紹介がうまいこともさることながら、土地有のお客さん、特に建て替え極めて得意にしているという点にあります。
建て替えノウハウの話は後日に回し、今回は土地なしのテクニックに絞っていきましょう。
よくあるケースは「誰でも出来ますよ」「どんな営業でも真似が簡単にできます」なのですが、今回の話はなかなか真似のできない部分も多々あると思いますので、これを含みながら話を読み進めてください。
圧倒的な土地調査能力
大学院で鍛えたノウハウをそのまま住宅営業に持ち込んだ
Aさんは理系出身ですが建築学部ではありません。
簡単に説明すると、都市計画や街の開発に絡むような特殊な学部の出身です。
しかも、その大学で院まで進んだので、一般の人がやらないような特殊な研究などもじっくり行っていたのです(なぜ住宅営業に進んだのかは不明ですが・・・)
その内容を住宅営業にそのまま持ち込んだわけですが、その話をそのまま皆さんにお伝えしたいと思います。
地域の発展と衰退を地図にして提出する
実物は私も見たのですが「こんなものを住宅営業がお客さんに提出したのは見たことがない」と思いました。
関西地方のある県の話です。
県庁所在地がある市ですから、非常に多くの人口を抱えている大規模自治体になりますが、この自治体を80地区ぐらいに分割した地図をAさんは私に見せてくれました。
その地図は地区ごとに色分けがされてあり、なにやら細かい数字が書き込んであるのです。
Aさんはこう説明してくれました。
「この地図は各地区の人口が減ったか増えたかという増減を表したものです。一般論にはなりますが、人口が増えている地域は今後も開発が進むと予想され、しかも地価も上昇傾向にあると推測できます。さらには、細かい指標計算があるのですが、そうした人口上昇地域には商業施設増えることが想定されます」
このような形で私にその地図の詳細を事細かに説明してくれました。
とにかく、この地図の説得力には驚きました。
同じものを他のお客さんにも提出するらしいのですが、100人が100人とも大きな関心を持ってまじまじと覗き込むそうです。
今後その土地がどのように発展して行くのかが一目でわかる地図と言っていいでしょう。
いきなりハードルを上げてしまいましたが、これは普通の営業では真似ができませんね。
Aさんは特殊なソフトを持っていて、それを色々いじることによってはじき出される仕組みになっています。
治安状況の提案
これもAさんだからできることらしいのですが、やはり関西にある人口50万程度の中規模都市の話です。
お客さんに土地を提案するときに、最近ではその治安に注目することが以前と比べて随分増えました。
お客さんのこのようなニーズを汲み取った上で、提案した土地の治安状況や周囲の犯罪状況などが一目瞭然の資料を作成します。
どういう仕組になっているのか私もわかりませんが、細かい治安状況などもお客さんに提示する能力をAさんは身につけています。
治安については皆さんもできるはず
特殊なソフトを使うのは無理ですが、提案したその土地の治安状態を、調べて提出することは皆さんでも真似ができます。
事実この私もコンサル先では、土地提案の際には可能な限り治安状況が分かるような資料も添えて出すように、営業社員に指導してるぐらいですから。
治安の説明はますます大事に
話はAさんから少しずれますが、一般論の話を少しさせてください。
10年前と今と比べると、明らかにお客さんが当地の治安状況を気にする度合いが増えてきたと感じます。
もちろん、のどかな田舎ではあまり関係ないのですが、都市部ではその傾向が強まっています。
直近の分かりやすい事例で言うと、昨年起こったルフィー事件でしょう。
フィリピンの刑務所から指示を出し、日本国内の実行犯が一軒家に押し入って高齢女性を殺害した事件です。
この一件は、闇バイトなる言葉を世の中に完全定着させた感があり、 その手口も“たたき”と呼ばれるものが主流になり、手荒さの度合いがますます激しくなってきました。
こうしたことから、地域の治安はもちろんですが、家自体の防犯についても、新築希望者の認識を改めさせるきっかけになったのです。
前日のAさんは治安に特化した提案をしていますが、皆さんは治安に加えて家の防犯についての提案も極力していただくようお願いします。
これがお客さんの信頼を勝ち得る営業手法の一つとなるのです。
Aさんの得意技は動画
これは真似ができる手法です。
あるお客さんに提案した実際のプレゼンテーションの控えを見させてもらいました。
そこで目を引いたのが動画です。
①現場から小学校までの道のり
そのお客さんには、小学校二年生の双子の女の子がいたそうです。
両親の気持ちを推察するに、娘2人が小学校に通う道のりの安全が気になるのは当然のことでしょう。
しかも、女の子という条件が加わるので、交通事故に遭わないかという不安に加え、変質者などへの不安があるのは当然推測できます。
そこでAさんが作成した動画は、現場から小学校までの道中に暗い部分や、死角となる部分がほぼないということを証明する動画になっていたのです。
大通りは問題ないのですが、どうしても支線に入れば人通りもなくなりますし暗くなる部分もあります。
しかし、Aさんの提案書を見ると、一般的な土地と比べるとそのような部分が圧倒的に少ないことを数値で示してあるのです。
すべての通学路が、煌々と街頭に照らされるような土地はないでしょう。
ですから、問題は暗い部分が少ないか多いかということになるのです。
②現場から勤務先まで実際に車で走行
これはかなりハードルが高いかもしれません。
手間さえかければ真似はできますが、相当な負荷が営業にかかることは 言うまでもありません。
「月曜日の朝、お客さんの通勤時間に合わせて車を実際に走らせたんですよね。それを動画に撮ってお客さんに提示したんです」
さすがの私も唖然としました。
ここまでやるかという感じです。
その結果、多少の渋滞にはつかまるものの、自宅から会社まで30分強で行けることが判明し、これが最終的にその土地を購入する大きなきっかけとなったそうです。
かなり大変だと書きましたが、お客さんに対するアピール度合いが極めて高いのは皆さんも推測できるでしょう。
真似するのは大変ですが、やろうと思えば誰でもできる提案方法の一つです。
③近隣の諸施設
最寄りの駅前にライザップが運営するチョコザップの新規店があったそうです。
お客さんの生活スタイルの一つに、体を鍛えるジムが近くにあったらいいという情報を事前ヒアリングしていたので、それを探した結果チョコザップを見つけたとのこと。
ただ、業績が悪くなればあっという間に撤退しそうなので、これを 売りにできるほど大きなポイントではなかったようですが、話としては盛り上がるわけですよね。
このほかには、現場近くにあった小児科の開業医はインパクトが大きかったとAさん話してくれました。
小児科と産婦人科は、仕事がハードな割には訴訟リスクを抱えるということで、成り手が少ないことで知られています。
しかし、このお客さんのように小学生低学年を2人抱えていると、 小児科が近くにあるのは何かと心強いことは想定できるでしょう。
しかも、Aさんがすごかったのは、この小児科医の評判も調べ尽くしたことにあります。
これは偶然だったのですが、極めて評判が良い小児科であることが わかったらしく、それを証明するような内容をネットでかき集めて お客さんへの資料としました。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
とても真似できない内容もあったと思いますが、後半部分に関しては、手間を惜しまなければ誰でもできる内容だと言えるでしょう。
土地を紹介して決めるのが難しいことは、住宅営業経験者であれば誰もが知っていることです。
良かれと思った土地を提案しても「もっといい場所があるかもしれない」となり、なかなか踏ん切りがつかないお客さんの気持ちも充分に理解できます。
だから、私たちはその気持ちの上を行くことが要求されます。
次回のお客さんから是非チャレンジしてみてください。