コラムにするネタがだんだん溜まってきましたので、久々にこの話題を取り上げましょう。
常日頃から私は住宅営業担当者の新築折衝場面を見ています。
検証の仕方はさまざまで、展示場内のカメラを通じてリアルタイムで観ることもあれば、それを録画したものを後日分析することもあります。
その他にも変わった見方がありまして、お客さんと営業が折衝する真横にカメラを置いて撮影するケースもあります。
実は某住宅メーカーの研修の一環として、この4月からこの録画パターンを採用して私が接客状況を検証しています。
検証した結果を編集した動画と共に、営業社員向けの研修材料としているのですが、4月からここまですでに30事例を超える折衝現場を分析するに至りました。
興味深い内容が多々ありましたので、このコラムで複数回に分けて紹介します。
優秀住宅営業マンF君がなぜ有能なのかがわかった折衝
この会社で素晴らしい受注成績を上げるF君の折衝
半年間で30事例以上みましたけれども、最も印象に残った折衝の話をしましょう。
20代中盤のF君は入社4年目ながら、すでに抜群の受注実績を誇り、全社でも常にトップスリーに入る営業マンです。
私はそれまで彼の営業現場を見たことがなかったのですが、今回の企画でついに観察することができました。
彼が優秀たる理由が一時間足らずの折衝に凝縮されていたのですが、ポイントを絞って解説していきましょう。
① 資料の準備が素晴らしい
タブレットと紙を駆使した変化球にも対応できる資料を準備
優秀な人には共通ですが、お客さんとの折衝時に口頭だけでなくそれを補完する資料をスマートに提示することが挙げられます。
今回実際にあった印象深いシーンを再現しましょう。
F君「弊社の外壁はメンテナンス性に非常に優れていますので、永久とはさすがに言いませんが、お手入れがめちゃくちゃ楽ですよ」
奥様「・・・そういう話はよく聞くんですけども、そうは言ってもこんな書き込みを見たことがあるんです。〇〇 の外壁はメンテナンスフリーと聞くけども、実際に住んでみたらすぐに汚れちゃったのであんなの嘘です、ってありました」
F君「はい、そんな口コミがあるのは事実ですね・・・これをご覧いただきたいんですけども(タブレットを少し操作しながら)この方も同じようなことを言っているんですが、これはおそらく大きな誤解がありまして実は・・・」
ざっとこんな感じで会話が進んでいきました。
こんな変わった資料を準備している営業は初めて見ましたね。
外壁の話をする時に、その外壁を肯定する資料は普通の営業であれば持っているでしょう。
ところF君は、メンテナンスフリーの外壁を批判した一般の方の口コミを資料として保管していたのです。
お客さんがそこをついた瞬間にその資料を手早くだし、口コミを書いた方が誤解に基づいたものである、ということを論理的に説明してきました。
何気にすごいと思いませんか?
② レベルの高いヒアリング能力
F君は初めてこのお客さんと会っていますので、 彼はお客さんのことを何も知りませんし、お客さんもF君のことは単なるセールスマンとしか認識していません。
この状況で、お客さんの不信感を増長させることなく、住宅計画を探る必要があるわけです。
ところが、今回のお客さんとの会話は、普通にはない面白い内容でした。
F君「今回の住宅の予定ですが、いつ頃引っ越しをしたいとかそのようなご希望ありますか?」
主人「実はまだまだなんですよ。具体的にまったく決まってないといいますか、白紙と言ってもいい状況です。土地も探さなくてはいけませんから、いつになることやらって感じです(笑)」
着座して話をするシーンですから、少なくとも予定が具体化していて業者を決めようとしている段階だと私も思っていたのですが、なんとこのお客さんは、まだまだ先だから白紙だと言うのです。
ところがF君の切り返しが見事でした。
F君「そうなんですね。そうであれば今日のご見学は実に懸命な動きだと私は思います。住宅を検討される方は、たいてい切羽詰まって来られる方が多いのですが、全く白紙という状態で来られて検討を始めるのが理想なんですよ」
そしてこのように続けました。
「3年先になるか10年先になるかわかりませんが、今日の段階でやるべきことは資金計画です。仮に今土地を取得して住宅を建てるとすれば、頭金をいくら出して毎月の支払いがどうなるかということだけ把握してください。この計算は簡単に出ますが、極端なことをいうと、これだけお聞きになってお帰りになってもらってもいいぐらいです(笑)」
このトークをきっかけに、結果的には90分間着座をして話をし続けたのですが、はじめに資金計画のことを切りだしたことがきっかけとなり話が弾んでいったのです。
実はこのお客さん、いま商談が具体化して折衝中なのですが、ここまで進展したのはF君の資金計画の提案があったからです。
「 あれ?今の家賃と変わらないじゃん?」
よくある話ですが、つまるところ家を建てる動機づけはここに尽きるのではないでしょうか。
今までアパートに住んで家賃を払ってきた人が、具体的な資金計画したところ「 あれ?」と気づくわけです。
ネットや雑誌等では「家賃並みの支払いで家が持てます」というキャッチコピーやお題目は目にしますが、実際に資金計画をして計算をするにはある程度のハードルが存在します。
F君はこのハードルを越えさせたことにより、お客さんが俄然前向きにかつ前のめりになったのです。
ただ、今回商談中と前述しましたが、最初に紹介した土地が今一つということで、現状では土地探しの状態に後退しています。
簡単には決まらないでしょうが、もともとは「全く白紙です」との状態でやって来たお客さんを土俵の上にあげたF君の力量は褒めるべきでしょう。
③ 「私はこの会社が好きなんです」
F君のトークにはしびれましたね。
会社への愛をいきなり語りだしたのには驚きました。
ただ、私がなぜこのトークに痺れたかというと、私も積水ハウスの現役時代には同じようなことを営業現場で使っていたからです。
これは先輩から教えてもらったのですが、お客さんの気持ちになると、担当の営業マンがその住宅会社を個人的に好きだというのはものすごく好印象に移るという指導でした。
これは心理学で考えても確かにその通りでしょう。
私であれば「積水ハウスってものすごくいい会社で居心地もいいんです」となりますが、この時お客さんはどう思うでしょうか。
悪印象を抱くわけがありません。
つまり、自分の会社が好きだというアピールをすること自体が、強烈な営業トークになっているわけです。
F君はこの折衝で同じようなアピールをしていました。
この話の流れでF君の就活のことにも話が飛び、他にどんな会社に内定を貰ったんだというような、いわゆる雑談になったのです。
この案件がどうなるかは全くわかりませんが、彼の初回面談は明らかに成功したと私は 分析しています。
折衝を分析することの重要性
私は外部コンサルタントですからやりやすいという側面もありますが、皆さんの会社でも可能であればお客さんとの折衝シーンを直接見るか映像媒体に撮影して分析することをお勧めします。
一番簡単なのは、営業に同席することになりますが、それが無理であれば、展示場内で壁の陰にでも隠れて話を聞く、もしくは事務所の打ち合わせルームの横にいて、声を聞けばいいではないですか。
このことを皆さんに強くおすすめさせていただきます。
まとめ
F君の話をここまでしましたが、彼以外にも特徴のある目を引いた折衝がいく例もありましたし、その逆に明らかに初回面談に失敗した事例も数例みました。
これらの内容を次号以降でもこのコラムでご紹介していきますので、 成功事例・失敗事例それぞれを皆さんの会社の糧にされてください。