コラム読者の方々に大工さんは少ないと思いますが、私が知っている、東北地方で大工を長年続けてきたある方の話をしましょう。
ここではAさんとしておきますが、Aさんは60代半ばの大ベテラン大工です。
祖父の代から続く大工で現在3代目。
少なくともコロナ前までは新築とリフォームがバランスよく存在し、しかもその8割が紹介受注という極めて良好な営業状態でした。
ところが、コロナになって受注が減っていきます。
2020年から21年にかけては、お客さんの動きも鈍くなったのである意味しかたがなかったのですが、コロナが終息に向かっても受注が一向に伸びず新築に至っては全くない状態になってしまいました。
「新築がなくなってリフォームで食いつないでいるよ」ある大工の嘆き
新規受注の8割は紹介案件
単純にすごい話だと思います。
ものすごい田舎にある工務店であれば、さまざまなしがらみもあって紹介が逆に多くなる傾向があるのですが、 Aさんが営業しているのは、東北地方にあるそこそこに大きな町です。
Aさんとはかなり前から知り合いなのですが、その当時から興味深かったのは紹介率でした。
コロナ後に紹介が急激になくなった理由の分析は後ほどするとして、まずはこれだけの紹介率を誇ったその理由を探っていきましょう。
ハマる人はがっつりハマる性格のAさん
私はAさんのお客さんに会って話を伺ったことがあります。
5年間に3人の方と会ったのですが、この取材の内容から推測できる紹介の多い理由はこんなところでしょう。
Aさんはかなりストレートな物言いをする方です。
知らないものは知らないと言うし、おかしいと思ったことは相手が誰であろうがおかしいと言い放ちます。
例えば某ハウスメーカーが得意とするスキップフロア住宅などは、一刀両断にぶった切ります。
内容があまりに専門的で私にはよく分からないのですが、 とにかく、次から次へと理論的な話や歴史的な背景まで持ち出して何十分でも話し続けるのです。
また、東日本大震災以前から、オール電化住宅は絶対ダメだと主張していました。
災害があった時にオール電化だとどうしようもならないというわけです。
このことは大震災によって証明されたことにもなります。
あるお客さんがオール電化を建てようとしたのですが、その当時Aさんは強く反対して止めさせました。
もちろんお客様は納得して建ててはいるのですが、東日本大震災の後久々に会った時、
「あの時強くアドバイスしてくれて本当に良かった。エネルギーインフラは電気とガスに振り分けておくべきだと実感した」
このように話していたそうです。
だいたい推測がつくと思いますが、周りに全く忖度しない人は、煙たがられる反面、波長が合ったり主張に対して心から納得すれば一目置かれるようになります。
このようなお客さんは積極的に自分の知人友人にAさんを紹介するわけです。
Aさんは一人親方ですので、年間に10棟も20棟も建築請負契約を取る必要はありません。
ですから、性格的に合わない人がたくさんいても、その逆の贔屓筋がそれなりにいれば、紹介だけで十分に食っていけるわけです。
コロナ終息後も受注が戻らない
「30年以上大工をやっていてこんな状態は初めてだよ」
つい最近Aさんとリモートで打ち合わせをしたのですが、事あるごとにこのような嘆き節が出てきました。
Aさんの自己分析と私の推測はこのようになります。
① Aさんの分析
- 感覚的なものだが施工エリア内の着工数が減っている気がする
- 自社だけでなく全体的に受注が減っている
- ローコストメーカーの支店が新たにできたので、そこに食われていると考えられる
- コロナの期間中家を建てる計画をストップした人が多いので話がそのまま停滞している
② Aさんの分析を受けた上での私の推測
- 着工数自体が減っているとは思えない
- Aさんの性格が変わったわけではないので顧客との関係性も以前のままのはず
- コロナが収束してもAさんの主力のお客さんである60歳以上の高齢者が家に閉じこもって情報過疎になっている
- 進出してきたローコストメーカーの影響はある程度考えられる
このような感じですが、結論を言うとAさんに紹介を出す中心層である60歳以上の動きが鈍いことが原因だと見ています。
コロナが終わっても用心して人と接触しないことが情報量の減少につながり、それがAさんへの情報量の低下にそのままつながっていると思います。
これはAさんから直接聞いた話ですが、いかにもありがちだとは皆さん思いませんか。
「僕に紹介をくれるお客さんの年齢層は60歳以上が多いのだけども、みんなが結構顔見知りでゲートボール仲間だったりお茶飲み友達でお互いの家を行き来してるらしいんだよね。紹介されて足を運ぶとみんなそんな間柄だよ」
これが重大なヒントだと思います。
東京などの大都市では違う傾向があるかもしれませんが、少なくともAさんが営業しているエリアでは、ゲートボールが盛んだし、昔から存在する古い喫茶店は朝のモーニングの時間帯がお年寄りだらけで、あっという間に満席になることも多いそうです。
こうしたところで情報交換をしている方々が、コロナで一斉に動きを止め接触しなくなっただけでなく、まだまだ動きが鈍いということが影響しているのだと思います。
もちろん、複数考えられる紹介情報量減少理由の一つということですよ。
皆さんに該当する可能性は?
コロナ前、コロナのピーク、コロナの収束期、この全てにおいて紹介情報量や契約数が変わらない工務店の方には関係ない話ですが、お施主さんも高齢化し紹介を出してくれる 方々の年齢も高齢化している場合、情報量が少なくなるのは 理論的にも筋が通った話です。
「最近新築がめっきり減ったよ」
こう話す小規模工務店の方が非常に増えたのですが、ひょっとしたら私の予想したこの話に該当する可能性があるかもしれません。
これまで紹介をくれたお客さんの年齢層を調べる
ある会社の社長にこんなアドバイスをしました。
会社と言っても社長を含めて従業員4人の小さな地場の工務店ですが、 2022年の4月にある会合で知り合ったこちらの社長とこんな話を宴席で交わしました。
社長「今年のゴールデンウィークはそこそこに人も動くようですよね。ただ、相変わらず紹介情報も激減したし、新築も急激に減ってきて困ったもんですよ」
私 「これまで紹介を出してくれたお客さんの年齢層はどのあたりですか?」
社長「うちは親父の代からやってるのですけど、その時のお客さんが主力なので60歳以下はほとんどいないですね。お客さんも高齢化しているので早く対応しないとまずいことはわかっているのですけども・・・」
私 「来年にはコロナもさすがに収束すると思いますが、高齢者ほど用心しているので、友達と会うのも控えるでしょうし、連絡も若者のようにメールやラインを使いこなしてる率は低いでしょうから、早く若い人にターゲットを絞らないと今までのような紹介は出ることなくこのままフェードアウトするかもしれませんよ」
初対面の社長ですが私はこのようにアドバイスをしました。
その後は連絡を取っていないのでどのような経緯になっているか知りませんが、私の見立ては当たっているような気がします。
まとめ
コロナに対する意見は皆さんそれぞれでしょうが、政府がマスクの着用推進をやめた日から私はマスクは一切していません。
人と比べると少数派に属するはずですが、これとは逆に年齢が上に行けば行くほど、コロナに対しては慎重になるはずで、 友人との接触も減ることでしょう。
いまだに国民の85%から90%が街中でもマスクをつけている状況を考えると、日本人の国民性も相まって60歳以上の方が、コロナ以前の水準まで戻ってゲートボールを楽しんだりするのはもう少し先だと思います。
そうなれば、以前の様に情報のやり取りをするので、新築の紹介もある程度は出ると思います。
しかし、これを機に紹介元の年齢層が比較的高い工務店の皆さんは、早く考え方を切り替えて、違うルートを模索しないと手遅れになるかもしれません。